視えるだけじゃイヤなんです!
「あたしの大切な人たちが昨日みたいなことで死ぬかもしれない。もしあたしにそれを防ぐ力があれば、あたしは自分にできることをして、大切な人を助けたい。視てるだけ、なんて、もうイヤなんです……!」

 覚さんはたっぷりと時間をかけた。無言で生クリームをほおばり、バナナを食べ、イチゴを指でつまんで口に入れ、ゆっくりとかみしめている。

 デラックスチョコバナナイチゴスペシャルパルフェを半分まで食べすすめたとこで、覚さんはふう、と大きく息をついた。

「うん。わかったわ」
「……覚さん!」
「いいわよ。同じ石の持ち主同士。アタシがしっかりめんどう見てあげる」
「ありがとうございます!」
「ただし!」

 覚さんはスプーンをあたしにつきつける。

「『ちゃんと全部守る』はやめなさい。ここみちゃんは、ここみちゃんを最優先にしなきゃダメ。自分を犠牲にして助けてもらっても、助かった人は喜ばないわ。これだけは、肝にめいじておいてね」

 すごく怖い顔。あたしはしっかりとうなずいた。

「そうと決まれば、さっそくやりましょうか。夏休み、今日からよね?」
「はい」
「じゃ、なるべくうちに通ってきてね。アタシもできるかぎり家にいるようにするから」
「ありがとうございます!」
「さ、それじゃパパっと食べて、家に戻るわよ!」
 言われてあたしも急いでムースにスプーンをつっこんだ。

 よかった。あたしはくちびるが上がっていくのを自覚する。
 がんばろう。あたし、強くなる。強くなって、次こそは役に立つ。立ってみせる。

 勢いよくムースをかきこむあたしを見て、覚さんがふふっと笑った。


  ◆◆◆


「俺は反対だ」
 倉橋家。病院から帰ってきてた昭くんは、事情を聞くと開口一番にそう言った。

「言うと思ったわ」
 がるがると怒る昭くんに、覚さんはヘラっと笑う。

< 49 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop