視えるだけじゃイヤなんです!
「アンタが反対しようとしまいと、もう決めちゃったのよ。だからジャマ、しないでね」
「兄さん! こいつを巻きこむのはやめろよ。透だってそう言ってただろ」
「だから、それを決めるのは昭じゃなくて、ここみちゃんよ。もういい加減学びなさいな」
覚さんはどこ吹く風だ。廊下に立ちふさがる昭くんをささっとよけて、あたしに手招きをする。
「はい、ここみちゃん、こっちこっち」
「お、おじゃまします……」
気まずい。
あたしはそそくさと昭くんの横をすり抜け、覚さんについていった。
倉橋家は、大きい。客間と、前にあたしが寝かされてた和室にしか案内されたことなかったけど、そのほかにもたくさん部屋があった。
すごいな……。あたしはおじいちゃんの法事のときにお寺におじゃましたときのことを思い出す。長い廊下があって、片方は縁側。片方は部屋。突き当りを曲がってもまだ廊下がのびている。
「さ、ここよ。入って」
覚さんが示した部屋は、長い廊下の終着点だった。
木でできた、観音開きのドア。なんとなくおごそかなフンイキで、あたしはごくりとつばを飲み込んだ。
ぎい、と音を立ててドアが開く。
中も広い。板張りの床に、同じく板張りのカベ。天井が高くて、二階ぶんくらいの吹き抜けになっているみたいだった。
あたしはおそるおそる足を踏み入れる。
キン、と空気が鳴った気がして、目を見開いた。
なんだか、すごい。外と空気が全然ちがう。すごく澄んでいて、息がしやすい。それに緊張感があるというか……そう、それこそお寺の中みたいな空気だ。
「いいでしょ。この部屋ね、アタシたちは『お堂』って呼んでるの」
「お堂……」
「そ。精神統一したいときとか、瞑想したいときとかに使うのよ」
そう言って、覚さんがドアを閉めた。
しん、と外の音が一切消える。
「じゃあ、ここみちゃん、そこにすわって」
あたしは部屋の中央に案内された。座布団が一枚引いてある。えんりょなくその上に正座すると、覚さんはうれしそうにうなずいた。
「ここみちゃんは、狐の窓を使ったり、イヤな予感に気づいたりしたときに、なにか視えたりはしなかった?」
「視える?」
「そう、例えば白い影が視える、とか。光が視える、とか」
あたしは思い出す。きっと、アレのことだ。
「頭の中に、赤い光が視えます」
「なるほどね。じゃあ、今からアタシが言うことよく聞いて」
あたしは居住まいを正した。
「今からここみちゃんには、この部屋に一人でこもってもらいます」
「一人で!?」
「そう。それで、その赤い光のことを考えるの。どんなふうに視えてたかをしっかり思い出すのよ。そうすると、頭の中でその赤い光がまた視えるようになる」
覚さんはふふっと笑った。
「赤い光がちゃんといつでも視えるようになったら、今度はその光に名前をつけてあげなさい」
「名前を?」
あたしは首を傾げた。
「兄さん! こいつを巻きこむのはやめろよ。透だってそう言ってただろ」
「だから、それを決めるのは昭じゃなくて、ここみちゃんよ。もういい加減学びなさいな」
覚さんはどこ吹く風だ。廊下に立ちふさがる昭くんをささっとよけて、あたしに手招きをする。
「はい、ここみちゃん、こっちこっち」
「お、おじゃまします……」
気まずい。
あたしはそそくさと昭くんの横をすり抜け、覚さんについていった。
倉橋家は、大きい。客間と、前にあたしが寝かされてた和室にしか案内されたことなかったけど、そのほかにもたくさん部屋があった。
すごいな……。あたしはおじいちゃんの法事のときにお寺におじゃましたときのことを思い出す。長い廊下があって、片方は縁側。片方は部屋。突き当りを曲がってもまだ廊下がのびている。
「さ、ここよ。入って」
覚さんが示した部屋は、長い廊下の終着点だった。
木でできた、観音開きのドア。なんとなくおごそかなフンイキで、あたしはごくりとつばを飲み込んだ。
ぎい、と音を立ててドアが開く。
中も広い。板張りの床に、同じく板張りのカベ。天井が高くて、二階ぶんくらいの吹き抜けになっているみたいだった。
あたしはおそるおそる足を踏み入れる。
キン、と空気が鳴った気がして、目を見開いた。
なんだか、すごい。外と空気が全然ちがう。すごく澄んでいて、息がしやすい。それに緊張感があるというか……そう、それこそお寺の中みたいな空気だ。
「いいでしょ。この部屋ね、アタシたちは『お堂』って呼んでるの」
「お堂……」
「そ。精神統一したいときとか、瞑想したいときとかに使うのよ」
そう言って、覚さんがドアを閉めた。
しん、と外の音が一切消える。
「じゃあ、ここみちゃん、そこにすわって」
あたしは部屋の中央に案内された。座布団が一枚引いてある。えんりょなくその上に正座すると、覚さんはうれしそうにうなずいた。
「ここみちゃんは、狐の窓を使ったり、イヤな予感に気づいたりしたときに、なにか視えたりはしなかった?」
「視える?」
「そう、例えば白い影が視える、とか。光が視える、とか」
あたしは思い出す。きっと、アレのことだ。
「頭の中に、赤い光が視えます」
「なるほどね。じゃあ、今からアタシが言うことよく聞いて」
あたしは居住まいを正した。
「今からここみちゃんには、この部屋に一人でこもってもらいます」
「一人で!?」
「そう。それで、その赤い光のことを考えるの。どんなふうに視えてたかをしっかり思い出すのよ。そうすると、頭の中でその赤い光がまた視えるようになる」
覚さんはふふっと笑った。
「赤い光がちゃんといつでも視えるようになったら、今度はその光に名前をつけてあげなさい」
「名前を?」
あたしは首を傾げた。