視えるだけじゃイヤなんです!
「そ。ここみちゃんが視えてるその光こそ、ここみちゃんだけのおキツネさまなのよ。自分の大切なアイボウなんだから、その子にふさわしい名前をつけてあげなさい」

 そうなんだ……。
 あたしは自分のおでこに手を当てた。

 最初に女の子のお化けを視たときも、咲綾に感じたイヤな予感も、みんなこの赤い光が教えてくれた。この光が、あたしのおキツネさまなんだ。

「今日は、いったんそこまで。じゃ、やってみましょうね。一時間くらいしたら、様子を見に来るからがんばりなさい」

 そう言って、覚さんはお堂から出て行ってしまった。
 一人きりだ。

 あたしは深く息を吸う。できるかわかんないけど、やってみよう。
「えっと」
 目を閉じる。赤い光のことを考える……。

 赤い光、か。

 この数日でなんだかいろいろあったなあ。怖い思いもしたし、くやしい思いもした……。これから先、あたしどうなっちゃうんだろう。そういえば咲綾は大丈夫なのかな……落ち着いたころに、またお見舞いに行かないと。それからお母さんも……お兄ちゃんが……学校の……――。



 トントン、という音で、あたしはハッと目を開けた。
「ここみちゃん、一時間たったわよ」
 え、ウソ、まじで!?
 あたし……寝てた?
 覚さんが、るんるんしながらお堂に入ってくる。
「で、シュビはどう?」
「あ……いえ……その」
「ここみちゃん?」
「いや、その、なんていうか」
「――よだれ、出てるわよ」
 えっ、ヤダ!
 あたしはあわてて口の周りをぬぐった。覚さんはぷっと笑いをこぼす。
「ウソよ、ウ・ソ!」
「えっ! ひどい!」
「ふふ、ごめんなさい」

 覚さんはペロッと舌を出した。

「まあ、最初からうまくはいかないものよ。今日はこれでおしまいにしましょ」
「え!?」

 だって、まだ一時間しかやってないのに!?

「こういうのは一気にやってもダメ。千里の道も一歩から、よ」

 はぁい……。
 あたしはふてくされながらも覚さんの後ろについてお堂から出た。


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