視えるだけじゃイヤなんです!
 いよいよ透くんが帰ってくるのか。たったの二週間なんだけど、ずいぶんと長い間入院していたような気がする。それだけあたしが倉橋家になじんだって証拠かもしれないけど。
 でも、透くんにもよい知らせができそうでうれしい。

 覚さんを見送ったあと、あたしと昭くんはリビングに戻る。

「透くん、帰ってくるの楽しみだね!」

 あたしはリビングにテーブルをセットしながら、昭くんに話しかけた。
 今日はこのあと、お祝いだ。覚さんからは、透くんが戻るまでにすべて準備を整えておくように、と言われている。

「……そうだな」
 昭くんはあんまり浮かない顔だった。
 あたしはテーブルクロスを広げる手を止める。

「……どうしたの?」
「いや」

 昭くんはあごに手をそえる。あたし、知ってる。昭くんのこのポーズ、何かを考えているときのやつだ。

 考えごとをじゃましちゃいけない。あたしはだまって、もくもくとテーブルのセッティングをする。

 テーブル、よし。お花、よし!
 あとは覚さんお手製のスイーツをならべて、お茶をいれればオッケーだ。
 あたしは満足してふう、と息をついた。そのとき。

「ここみ」

 あたしは胸がはれつするんじゃないかってくらいおどろいた。
 えっ、あたし?
「昭くん、今あたしの名前を呼んだの!?」
「そうだけど、なに」
「えっ……」

 なに、と言われると困っちゃうけど。

「いや、だっていっつも、『お前』とか『こいつ』とかだったじゃん」
「そうか?」
「そうだよ!」

 びっくりした。なんでだろう。覚さんや透くんに『ここみちゃん』って呼ばれるのはだいぶなれたけど。呼びすてだからかな。なんだか胸がどきどきして、そわそわする。

「で、ごめん、なに?」
「ああ。……ここみに話しておこうかと思って。二人が戻ってくる前に。ちょっと、いいか?」

 昭くんは、部屋の外をあごでしゃくった。

 ここみ、という呼び方にドキドキしながら、あたしは昭くんの後をついていく。
 いつもの客間まで行くと、昭くんはあたしにすわるように示した。
 おとなしく座布団にすわると、昭くんも向かいにすわった。

 茶机ごしに向き合う形になって、あたしはまたどきどきしてくる。どうしたんだろう、改まって……。

「訓練のことなんだが」
 昭くんが、ぽつりと言葉を落とした。

「あらためて。成功、おめでとう。なかなかできる人がいないって兄さんが言ってたから……正直おどろいた」

 あたしもおどろいた。だって、昭くん、あたしが訓練するのに反対してたのに。あらたまってお祝いの言葉がもらえるなんて考えてもいなかった。

「訓練のこと、怒ってないの?」
「怒ってない。そもそも最初から」
 ウソだぁ。
「俺は反対だ、って言ってたじゃん」
「それは……」

 昭くんは手のひらで頭を支えるようにする。

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