視えるだけじゃイヤなんです!
あたしは、なんて言っていいかわからない。昭くんの気持ちも、透くんの気持ちもわかるから……。
「でもさ……」
それでも口を出さずにはいられなかったのは、透くんのくやしそうな顔を見たからかもしれない。覚さんの、「透が決めて、透がやったこと」という言葉を聞いたこともある。
「透くんに引退してもらうって。それは昭くんが決めていいことじゃないんじゃない……?」
「……」
「透くん、『もう大丈夫』って言ってたもん。透くんの意思を尊重してあげようよ」
昭くんはうつむいてしまった。そのままぽつりと言葉を落とす。
「透の髪の毛、白いだろ」
「えっ……うん」
なんの話だろう。
「あれ、俺のせいなんだ」
「――え……?」
昭くんは、しぼり出すように声を発した。
「前に……俺が無茶をして。透に全部の負担が行った。その結果、透は倒れて。二カ月間生死をさまよったんだ」
あたしはとっさに口を押える。ダメ。ここで声を挙げたら、昭くんが気にしちゃう。
「透の白い髪は、俺にとっての十字架だ。だから、俺はぜったいに透を守るって決めた。それが透の意思を無視してるとしても、ぜったいに……!」
昭くんの思わぬはげしさに、あたしは息をのんだ。
そっか……。あたし、ちょっと甘くみてた。覚さんにも言われた「死んじゃうかもしれない」という言葉が身にしみる。
昭くんと透くんは、本当にずっと死と隣り合わせなんだ。だから昭くんは透くんのことに必死になるし、透くんは昭くんの役に立ちたいって思ってる。
「透はぜったいに俺が説得する。もうあいつに力を使わせないようにしたい。ただ、そうすると……」
昭くんはとても言いにくそうにしていた。あたしはだまって、昭くんの言葉を待つ。
「そうすると、俺は『視えない』んだ。だから、ここみ、お前に俺の目になってもらいたい」
思いもかけない言葉に、あたしは呆然としてしまう。
あたしが、昭くんの目に……?
「もちろん、危ない仕事からは外れてもらうし、何か危険なことがあったら、俺が全力でここみを守る。だから……」
昭くんが、あたしに頼みたいことって、このことなんだ。
あたしは胸にひたひたとせまる熱い感情のまま、言葉を口に乗せた。
「昭くん、あたしね」
あたしはちゃんと伝えないといけない。ここであたしが「うん」と言えば、昭くんが責任を持つことになっちゃう。そうじゃないよって伝えないといけないんだ。
「あたし、強くなって、大切な人が困ってるときに助けたい。だから、昭くんといっしょだよ」
咲綾のときみたいに、なにもできないあたしでいたくない。
「あたしは守ってもらいたいわけじゃない。あたしはあたしの意思で、昭くんといっしょにがんばりたい」
昭くんは目を見開いて、そのまま泣きそうな顔で笑った。あたしもなんだかうれしくて、きっと泣き笑いの顔になっていたと思う。
「じゃ、リビングに戻ろ。ケーキならべないとね」
「――ああ」
あたしは立ち上がり、客間を出ようとした。その手をくいっと引かれて、ふり返る。
「ここみ、ありがとな」
ちょっと照れたみたいに顔を赤くした昭くんが、あたしに笑いかける。
「……うん」
なんだろう、ちょっと顔、熱い。急にはずかしくなって、あたしはあわてて昭くんの手を外した。
◆◆◆
「退院おめでとう! 透くん!」
リビングに入ってきた透くんに、あたしはクラッカーをおみまいする。
「でもさ……」
それでも口を出さずにはいられなかったのは、透くんのくやしそうな顔を見たからかもしれない。覚さんの、「透が決めて、透がやったこと」という言葉を聞いたこともある。
「透くんに引退してもらうって。それは昭くんが決めていいことじゃないんじゃない……?」
「……」
「透くん、『もう大丈夫』って言ってたもん。透くんの意思を尊重してあげようよ」
昭くんはうつむいてしまった。そのままぽつりと言葉を落とす。
「透の髪の毛、白いだろ」
「えっ……うん」
なんの話だろう。
「あれ、俺のせいなんだ」
「――え……?」
昭くんは、しぼり出すように声を発した。
「前に……俺が無茶をして。透に全部の負担が行った。その結果、透は倒れて。二カ月間生死をさまよったんだ」
あたしはとっさに口を押える。ダメ。ここで声を挙げたら、昭くんが気にしちゃう。
「透の白い髪は、俺にとっての十字架だ。だから、俺はぜったいに透を守るって決めた。それが透の意思を無視してるとしても、ぜったいに……!」
昭くんの思わぬはげしさに、あたしは息をのんだ。
そっか……。あたし、ちょっと甘くみてた。覚さんにも言われた「死んじゃうかもしれない」という言葉が身にしみる。
昭くんと透くんは、本当にずっと死と隣り合わせなんだ。だから昭くんは透くんのことに必死になるし、透くんは昭くんの役に立ちたいって思ってる。
「透はぜったいに俺が説得する。もうあいつに力を使わせないようにしたい。ただ、そうすると……」
昭くんはとても言いにくそうにしていた。あたしはだまって、昭くんの言葉を待つ。
「そうすると、俺は『視えない』んだ。だから、ここみ、お前に俺の目になってもらいたい」
思いもかけない言葉に、あたしは呆然としてしまう。
あたしが、昭くんの目に……?
「もちろん、危ない仕事からは外れてもらうし、何か危険なことがあったら、俺が全力でここみを守る。だから……」
昭くんが、あたしに頼みたいことって、このことなんだ。
あたしは胸にひたひたとせまる熱い感情のまま、言葉を口に乗せた。
「昭くん、あたしね」
あたしはちゃんと伝えないといけない。ここであたしが「うん」と言えば、昭くんが責任を持つことになっちゃう。そうじゃないよって伝えないといけないんだ。
「あたし、強くなって、大切な人が困ってるときに助けたい。だから、昭くんといっしょだよ」
咲綾のときみたいに、なにもできないあたしでいたくない。
「あたしは守ってもらいたいわけじゃない。あたしはあたしの意思で、昭くんといっしょにがんばりたい」
昭くんは目を見開いて、そのまま泣きそうな顔で笑った。あたしもなんだかうれしくて、きっと泣き笑いの顔になっていたと思う。
「じゃ、リビングに戻ろ。ケーキならべないとね」
「――ああ」
あたしは立ち上がり、客間を出ようとした。その手をくいっと引かれて、ふり返る。
「ここみ、ありがとな」
ちょっと照れたみたいに顔を赤くした昭くんが、あたしに笑いかける。
「……うん」
なんだろう、ちょっと顔、熱い。急にはずかしくなって、あたしはあわてて昭くんの手を外した。
◆◆◆
「退院おめでとう! 透くん!」
リビングに入ってきた透くんに、あたしはクラッカーをおみまいする。