視えるだけじゃイヤなんです!
 あたしの話を聞いた昭くんは、軽くうなずいた。
「そうか。じゃあ、今日はやめておこう」
「へっ、いいの?」
「当たり前だ。俺は視えないからわからんけど、透も同じようなことを言っていたことがある。何かしらの負担がかかっていると、能力も安定しないんだそうだ」
「負担……」

 当てはまるようなこと、ないんだけどな。
 あたしはちょっと落ちこんだ。せっかくうなぎともコミュニケーションを取れるようになったのに、なんだかふりだしどころか、もっと前に戻ってしまったみたい。

「とりあえず、出直そう。今日はもう帰ってゆっくり休め」
「……うん、わかった」
 くるっと向きを変えてスタスタと歩き出す昭くんの後ろを、あたしはとぼとぼと歩いた。



 翌日。同じように橋に来ても、あたしはやっぱり何も視えなかった。昭くんは「気にするな」と言ってくれたけど、あたしはめいっぱい気にしてしまう。
 翌々日。やっぱり、視えない。昭くんは肩をすくめて、そのまま帰ることになった。

 そして次の日。
 あたしは重い気持ちで倉橋家の前に立っていた。

 今日も……また視えないのかなあ。

 家で狐の窓を試そうとも思ったんだけど、もし何か視えたりしたらやっぱりイヤで、ためらっちゃったんだよね。でも、そうも言っていられないくらい、自分の力に自信がなくなっている。

 せっかく昭くんが「俺の目に」と言ってくれたのに、あたし全然役に立てなくて、自己嫌悪で倒れそうだ。

 玄関の呼び鈴を押そうとしたときだった。
 あたしの後ろから、昭くんと透くんが歩きながら話している声が聞こえる。

「あれ?」
 透くんが声を挙げた。

「ここみちゃん、どうしたの?」
「透くん。昭くんも……外、行ってたの?」
 めずらしい。透くんが入院してから、昭くんは遠くんが外に出るのをイヤがってるものだと思っていたのに。
 昭くんはうなずいて、ぶっきらぼうに言葉を発した。

「あの橋のところへ行ってきた」
「え!?」
「透に視てもらったから、もう大丈夫だ」

 あたしは、頭をかなづちでなぐられたみたいな衝撃を受けた。

「あ……そう、なんだ」
 自分でもなにがそんなにショックなのかわからない。口の中がひりひりして、喉の奥がカラカラになる。

 あ、やばい、あたし、泣きそう。

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