視えるだけじゃイヤなんです!
「ま、うなぎはないけど。寄ってって。ちょうどいま閉店だから」
「え!?」
「いいのいいの。覚の友だちは私の友だち!」
 そう言って、楓さんは店の中に入っていく。
 あたしは迷って、その後ろについていくことにした。


「てきとうに座って! 今お冷出すから!」
 厨房に引き返した楓さんは、カラッとした明るい声でそう言った。

 あたしは奥の席を選んで、ずうずうしくも腰かける。なんだか、いいのかなあ。

 お店の中をゆっくり見るのは初めてだ。わ、オシャレ。ドライフラワーのリースがかかってる。机も、椅子もみんな木でできていて、あたたかみのあるアイボリーやアンティークピンクのペイントがほどこされている。

「はい、お冷。それと、はい!」
 楓さんがあたしの前にでん、と置いたのは、しゅわっと泡がはじけるサイダーだ。中に丸い形でくりぬいたゼリーやフルーツがぎっしり。

「楓さん、これ」
「次のメニューの試作品。よかったら感想教えてほしいなって」

 にかっと笑って、楓さんはまた厨房に消える。

 あたしはお言葉に甘えて、ストローを手に取った。まずはひと口。鼻先ではじけるサイダーの泡が気持ちいい。すっきりとした味で、ミントとライムの香りがする。

 そえられていた柄の長いスプーンで、丸い形にくりぬかれていたフルーツをすくい取った。これは……スイカだ。しゃりしゃりの果実がサイダーとまじって、口の中ではじけた。

「おいし……」

 あれ、あたし……なんでまた泣いてるんだろう。おいしいのに、うれしいのに、涙が止まらない。

 楓さんはひょいっと厨房から顔を出すと、やれやれ、というように笑ってみせる。そのまま腰に巻いていたエプロンで手をふいて、あたしの前の席にことんとすわった。

「ね、悩める学生さん」
「あ……ここみです」
「ここみちゃん」

 楓さんはふふっと笑った。

「どう? それ」
「あ……おいしいです。さっぱりしてて、見た目もキレイ」
「よかった! じゃあこれで決まり」

 楓さんはうれしそうににっこり笑う。

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