視えるだけじゃイヤなんです!
 透くんはいつものキレイな笑顔で、あたしを出迎える。
「あ、訓練? ごめんね、今日、兄さん出かけちゃってるんだ」
「ちがうの」

 あたしはお腹に力を入れて、透くんの目をまっすぐ見た。

「透くん、あたし、透くんとお話がしたい」
 そう言うと、透くんは目を見開いて、花が開くみたいににっこり笑った。
「うん、いいよ。じゃあ、客間に行こうか」

 あたしはぐっと手のひらをにぎりしめる。

 透くんの後に続いて、くつをぬぎ、いつもの客間に案内されると、透くんはすっと障子を閉めた。なんてことない仕草なのに、あたしはビクっとしてしまう。

 あたしは深呼吸した。

 昨日の夜、ずっと考えてた。
 神社で女の子を助けたとき。咲綾の異変に気づいたとき。そのあとの訓練中もずっと、ずーっと、あたしは視えていた。

 じゃあ、あたし、いつから視えなくなったんだっけ……?

「ね、透くん」
 あたしはごくりと唾をのみこんだ。

「透くん、あたしになにか……した?」

 透くんはだまって、障子の前に立ったままあたしを見ていた。その気配に少しだけ変な予感がして、あたしは声がふるえそうになる。なんでだろう、ちょっと、怖い。

「なにかって、なに? 具体的に言ってほしいな」

 ふんわりと透くんは笑う。いつものキレイな笑顔なのに、あたしは心にぐさぐさとするどいトゲがささるような気がした。

「――あたし、今、視えないの」
「うん、聞いたよ。よかったね」
「よかった……?」
「そうだよ」

 そう言って、透くんはすっとあたしに近づいた。あたしはそのぶん、一歩下がる。なんだか、すごく怖い。イヤな予感がする。

「だってここみちゃん、怖がってたじゃない。ここみちゃんの力に制限をつけたとき、僕は君の心にさわったよ。こんな力欲しくない、なんで石なんてさわっちゃったんだろうって思ってたでしょ?」

 また一歩、透くんがあたしに近づく。あたしも一歩下がった。

「だから、視えなくなったなら、それでよかったじゃない、ね?」

 ドン、とあたしの背中が壁にぶつかる。

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