視えるだけじゃイヤなんです!
 どれくらいの時間が経ったんだろう。あたしがゆっくりと目を開くと、もうあの男はいなかった。代わりにいたのは……男の子だった。

 あたしと同じ学校の制服を着ている。見たことない顔だし、大人っぽいフンイキがあるから三年生かもしれない。
 男の子は、手にむき出しの刀をにぎっていた。短めにカットされた髪の毛は真っ黒で、つり上がりぎみの黒い目がじろりとあたしを見つめている。
「あ、あの……」
 よくわからないけど、きっと、この人が助けてくれたんだ。
 あたしはお礼を言おうとした。次の瞬間――。

「この、ドロボウ!」

「へ……?」
「お前のせいで、俺の計画が台無しだ!」
 頭にがんがんひびくような大声で、その男の子はどなった。
「な、なに、なにが?」
「しらばっくれるのか?」
 男の子はじろりとあたしをにらんで、刀を腰にはさんでいた鞘におさめた。

「稲荷の前で石にさわっただろ! あの時お前は、俺が手にするはずの力をぬすんだんだ。くそ、サイアクだ! 数百年に一回のチャンスだったのに……!」

 あたしはうまく息が吸えない。さっきまで変なお化けにおそわれて、今度は意味のわからないことで責められて、ぐちゃぐちゃの気持ちをどうしたらいいかわからない。
「――なによ……」
 声がふるえた。
「知らないよ! 訳がわかんないよ! 確かに石にはさわったけど、それが何!? 力とか、意味わかんないっ……」
 もうだめ。こらえていた涙が勝手にあふれ出す。
「さっきのあのお化けも、なんだったの。あんなの、今まで見たことない……! もうやだ、帰りたい……帰りたいよ!」

 男の子は盛大なため息をついた。
「……帰りたいなら帰れよ。ほら、道はそこだ」

 イライラした声をかくそうともしないで、男の子があたしの後ろを指さした。
「うそ、なんで……」
 そこには、あたしがお社までたどってきた道がたしかにあった。奥の方に、元の神社も見える。もうすっかり夜になっていて、神社は赤い光でライトアップされていた。

「今日はサイアクだ。よりによって道に迷ったあげく、……こんなシロートに、狐の力を横取りされて……。くそっ」
 男の子は舌打ちをして、あたしを置いてさっさと歩きだす。
「あ、ちょっと!」
 ……行っちゃった。

 あたしはぶるっと体をふるわせた。こんな暗い場所で、一人で、またさっきみたいなやつが現れたら……。

 痛む足をかばいながらなんとか立ち上がると、神社に向かって歩く。
 帰ろう。


 きっとこれは、なにかのまぼろしなんだ。あたしはひょこひょこ歩きながら自分に言い聞かせる。
 さっきのお化けも、きっとウソ。ちょっと疲れちゃって、へんな幻覚とかを見ちゃったんだ。だから、とにかく帰って、あったかいご飯を食べて、お風呂に入って……いつも通りの生活に戻らなきゃ。


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