視えるだけじゃイヤなんです!
「そうだね、昭は気づかないだろうね。でも、僕はずっと思ってた。昭がずっと視えないままでありますように。僕を必要としてくれますように! だからこそ、昭が石を手に入れられないようにしたのに。まさかそれをここみちゃんが手に入れちゃうなんて……」

 昭くん、顔が真っ青だ。

「……俺が、神社の森で迷ったのは透の仕業か」
「ほら、やっぱり気づかないんだもの。そういうとこだよ昭」

 透くんの、影に包まれていない方の目から涙がぼろっとこぼれ落ちた。

「全部うまくいったと思った。これで昭はずっと視えないままだ。だから僕と一緒にいてくれる。……でも、ここみちゃんが現れた。視えるだけじゃない、千里眼も予知も使えて、もうすぐ使い魔も手に入れようとしている。そしたら、どうなる? 僕のことなんて、もう必要なくなるでしょ。そんなの、僕、どうしたらいい! これからどうやって生きていけばいい!」

 またチリッと光が走る。

 来る!
「昭くん!」

 昭くんが刀を振った!
 ひゅっと鋭い音。透くんの放つ空気の塊が刃にぶつかる。
「っつ……!」

 昭くんは刀を真横に構えたまま、空気の塊を押しとどめていた。
「透……もうやめろ!」

 昭くんが怒鳴る。
 そのままの勢いで空気の塊を切り裂くと、刀を大きく振りかぶった!

 透くんは、悲しそうにほほ笑んだ。
「約束したじゃない」

 え……?

 昭くんの動きが止まった。

「透」
「僕たちは二人で一人だよ。その半身である僕を、殺すの?」
「ちがう……!」
「ずっとそばにいようって約束したじゃない。僕はそのために生きてきた。ここみちゃんがいなくなれば、元どおりだよ。それのなにがそんなに悪いの」

 透くんの黒い影が、勢いを増している。あたしはその黒い影の中に、別の風景を視た。

 これは……透くん? 布団に横になって、ぼんやりと縁側の外を眺めている。
 軽々とした足音が聞こえて、まだ幼い男の子が部屋にかけこんできた。あれは、昭くん。透くんは昭くんの話を楽しい気持ちで聞いている。


 ――大きくなったら一緒に外に行こう。たくさんお化けをやっつけるんだ。
 ――俺と透なら怖いものなしだ。
 ――うん。僕たちは二人で一人。だから昭も、ずっと僕の側に――……。

 そっか……。これは、二人の過去だ。
 胸の奥が苦しい。あたし、本当に考えなしだった。透くんの気持ちをもっと考えればよかった。

 でもね、透くん。

 あたしは手のひらをにぎりしめる。

「……透くんはまちがってる」

「ここみ!?」
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