視えるだけじゃイヤなんです!
赤い光が、あたしの頭の中でぱあっと広がった。
キレイな光。まるでお祭のときのかがり火みたい。
その火の中から、まるで花のつぼみが開くように現れた影を見て、あたしは目を瞬かせた。
三角の耳に、細い体。長い尻尾をゆらめかせて、あたしを守るみたいに目の前に立っている。真珠色に輝くからだには赤い炎をまとっていて、温かな光があたりを包み込んでいた。
「……うなぎ?」
見たことのないくらい美しい生き物は、あたしの声に反応してキュルルっと鳴いた。
うなぎはあたしに近寄ると、なめらかな首筋を手にすりつけてもう一度キュルルっと鳴く。
この子が、あたしのおキツネさま……。なんてキレイなんだろう。
うなぎはもう一声鳴くと、高く跳びあがった。くるりと回って透くんの前に立ち、高らかに吠えた。
赤い光が、部屋中を満たしていく。やわらかく温かい光に、あたしはなんだか涙が出そうになる。
透くんを覆っている黒い影から無数の人の顔が現れた。ぽこぽことまるで泡立つように顔が生まれ、安らかな顔になって消えていく。
「……なんだ、これ」
昭くんがぽつりとつぶやいた。
「イヤな気配がどんどん消えていく……。これは、いったい……」
うなぎだ……。うなぎが、影に取り込まれた人たちを助けてくれているんだ。
「――使い魔まで、使えるようになったんだねここみちゃん」
真っ黒い影が、寂しそうな声を挙げた。
あたしはハッとする。
さっきまでと、少し様子がちがう。変わらずやわらかい、甘い声。でもそこに漂っているイヤな気配がちょっとだけ薄れていた。
「透くん……?」
「うん。君の使い魔が、死神の力を弱めてくれたんだ」
黒い影がすっとうすれ、透くんの顔がちらりと見えた。また次の瞬間、黒い影が燃え上がり、透くんを覆いつくす。
「……ごめんね、ここみちゃん。僕、自分でもどうしたらいいかわからないんだ。死神は、もう僕の中にかなり入りこんでいるみたい。どうやっても切り離すことができなくて……」
苦しそうに透くんがつぶやいた。黒い影は濃くなったり薄くなったりをくり返している。あの黒い影が、死神なんだ。透くんは、今必死にその影に飲みこまれないように戦ってる……。
「昭」
透くんが声を挙げた。
「お願い。僕を切って」
「透……!?」
「透くん!?」
あたしたちは同時に叫んだ。
「なに言ってんの!? そんなことしたらダメだよ!」
「透、まだ時間はある! 兄さんが帰ってきてから、切り離す方法を考えよう!」
「ダメだ!」
きっぱりと透くんが言い切った。
「もう持たない。こうしている間にも、僕は……また君たちを……!」
「しかし!」
「早く! 僕が僕でいるうちに、こいつを僕ごと切るんだ!」