視えるだけじゃイヤなんです!
「昭からちょっとだけ聞いたけど。ごめんなさい、ここみちゃん」
 覚さんは悔しそうにくちびるをかみしめている。
「保護者の監督不行き届きね。巻きこんじゃって……ごめんなさい」
 あたしは大慌てで首をふった。
「あたしこそ、ごめんなさい」

 じんわりと涙がにじみそうになって、あたしはあわててうつむいた。

「あたしがもっと透くんの気持ちを考えていれば、こんなことにならなかったと思うんです。だから……」

 ぽん、と頭に手を置かれて、涙がぽたりと落ちる。

「ちがうわ、ここみちゃん。あれは透の問題で、昭の問題よ。あなたは巻きこまれただけ。だから、自分を責めないで」
 優しい声で、覚さんはそう言った。そのままうんっと伸びをして、あたしに軽くウインクしてみせる。

「ちゃんとした説明が必要でしょうし、ここみちゃんのご両親には、アタシからご連絡させていただくわ。――任せて。ここみちゃんが怒られないように、ちゃんとうまいことやるからね」

 あたしは息をついて、ぺこりと頭を下げた。家族にケガの理由をうまく説明できそうになかったから、ちょっとほっとする。

 そのとき。トントン、と横の窓を叩かれた。……昭くんだ。

「兄さん。医者が呼んでる」
「うん、わかったわ。――じゃあ、ちょっと行ってくる」

 覚さんがするりと運転席から降りた。

「ここみ。ちょっと――話したい。いいか?」
 あたしはうなずいた。覚さんと入れ替わるように、昭くんが運転席にすべりこんだ。

 昭くんは、しばらく何も言わなかった。エアコンのファンが回る音と、うっすら蝉の声が響く車内で、あたしたちはだまって座っていた。

「恥を忍んで、ここみに頼みたいことがある」

 昭くんが、ぽつりとつぶやいた。思ってもいなかった言葉に、あたしは目をしばたかせた。

「……こんなことを頼むなんて、ひどいやつだと思われてもかまわない。でも、ここみにしかできないことなんだ」
「な、なに……?」

 あたしはつばを飲み込んだ。
 あたしにしか、できないこと……?

「透の未来を予知してほしい」
「……え!?」
「ここみは予知が使えただろう。それで、透の未来を視てほしい」

 昭くんは頭を両手で抱え、うつむいた。

「――医者にも言われたんだ。今日目覚めなかったら、透の命はないと」
「……うん」
「もし、透の未来が視えたら……透は助かるってことになる。だから……!」

 苦しそうに、昭くんはうなった。歯を食いしばって、顔をゆがめて、必死に感情を抑えこんでいる。

 あたしは胸が苦しかった。

 透くんに見せてあげたい。昭くん、こんなに透くんのことを心配してるんだよ。透くんが思っている以上に、昭くんは透くんのことが大切なんだよ。

 なんにも心配することなかったのに、本当にバカな透くんだ。

「――昭くん」
 あたしはうなずく。
「……あたし、やってみるよ」

 正直、怖い。もし未来が視えなかったら透くんは……。

 ううん、決まったわけじゃない。あたしの力は予知だって透くんが言ってた。予知なら、これからの行動次第で変えることができる。


 でも、どうやって視るんだろう。
 前に視たときは、狐の窓を使って、急に視界がおかしくなったんだよね。今回もそうすればいいのかな?

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