視えるだけじゃイヤなんです!
「えっと」
 狐の窓を作ろうとしたあたしの手を、うなぎがキュッとくわえた。
「うなぎ?」
 うなぎはくるりと回って、あたしの手の上でキュルルっと鳴く。

 あたしの頭の中で、また赤い光がはじけた。なんだろう、でも今までのとは違う。なんだか体がふわっとして、くるくる回って……それで……。

 昭くんの声が……遠くで聞こえる……。

 え、うそ……もしかしてあたし……眠っ……て……――。


  ◆◆◆


 目を開けると、あたしは倉橋家に立っていた。
 え……? なんで?
 さっきまで車の中にいたのに……!

 キュルルっと声が聞こえる。

「うなぎ?」

 うなぎはあたしの横で、ちゃんと狐サイズに戻っていた。そのまま頭を足にすりつけると、ついてこいと言わんばかりにあたしを先導する。

 長い廊下を歩き、角を曲がり、まっすぐ行った奥のつきあたりの部屋。ここは『お堂』だ。

 あたしは、『お堂』の扉をそっと開いた。

「……透くん!?」

 お堂の真ん中に、透くんが座っていた。
 最初に会った時みたいに、和服をさらっと着こなして、座布団の上に正座をしている。
 その透くんの体は、うっすらと透けていた。

「透くん!」

 呼びかけると、透くんはぼんやりと目を開けて、ニコッと笑う。

「ああ……来ちゃったんだね、ここみちゃん」
「来ちゃった……って」
「もしかして、わからないで来ちゃったの?」
 透くんはクスッと笑う。
「自分の手、見てごらん」
 あたしの手……?
 言われて、あたしは自分の手を見て……。
「ひっ……!」

 透けてる……! なんで!?

「いらっしゃい、ここみちゃん。死後の世界へようこそ」
「死後ぉ!?」

 うそでしょ!?
 うん、確かにあたし、未来を視たいって思ったけどさ、思ったけど……。死後ってことは、つまり、透くんは……。

「透くん……死んじゃうの……?」
 あたしの反応を見て、透くんがクスクスと笑った。

「ここみちゃんって、ほんと見てて飽きないね。僕のこと、怒ってないの?」

 いたずらっぽく透くんが笑った。

「あんなにひどいことして、ひどいこと言ったのに。なんで力を使ってまで僕に会いに来たの? 顔も見たくない! って思うのが普通の反応だと思うんだけど」

「でも、透くんがやったことじゃないもん」
 そうだよ、死神がやったこと。だから透くんは悪くないじゃない。

 そう言うと、透くんは声を挙げて笑う。

「バカだねここみちゃん」
「えっ!?」

 バカって言った!?

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