視えるだけじゃイヤなんです!
家に着いたのは、夜の九時すぎだった。そんなに時間がたってないと思っていたから、あたしはぽかんと時計を見上げる。
お母さんとお兄ちゃん、帰ってきていたお父さんにさんざん怒られた。どこで、何してたの、という質問にあたしは答えることができなかった。
だって、言えないよ。
とつぜん変なお化けにおそわれた、なんて、普段のあたしだったらバカバカしいって笑っちゃう。それに、話したら……なんだかあの時のことが本当にあったことなんだって認めちゃうような気がして。
そんなあたしの様子に、お母さんは何かを感じ取ったみたいだった。
「もういいわ。無事でよかった」
お父さんも、安心したみたいにあたしの頭をぽんと叩いた。
ドロドロの服を着がえて、お風呂に入って、リビングに戻ってきたあたしの足首に湿布をはってくれたのはお兄ちゃんだ。
「心配かけんなよ」
そう言って、頭を軽く小づかれる。
あったかいご飯をたくさん食べて、身支度して、自分の部屋のベッドに入る。
早く寝よう。明日の朝から、またいつもの生活が始まるんだ……。
その時のあたしは、知らなかったんだ。
いつも通りの生活なんて、もう送れないんだ、ということに――……。