視えるだけじゃイヤなんです!
壊れる日常、宿った力
「ここみ!」
「咲綾!」
学校に行く途中。咲綾はあたしを見つけると、勢いよくかけ寄って抱きついた。
「ごめん! ごめんねここみ!」
「へ、なにが!?」
「あのあと、ここみのお母さんから家に電話が来て。ここみが帰ってこないから、そちらに来てませんかって」
「あ、そうなんだ」
あたしはちょっと反省する。お母さんにすごく心配かけちゃったんだ。
「私、ママからそれ聞いて、サイフのこと言わなきゃってもう一回かけ直そうとして……そしたらここみが帰ってきたって聞いて……」
泣きそうになったんだろう、咲綾はくちびるをへの字に曲げる。
「本当にごめん! ぜったい怒られたよね、ここみの家族にも迷惑かけちゃった……本当ごめんね!」
あたしはちょっと笑ってしまった。咲綾は、いつもそうだ。あたしの大切な親友は、自分がマズいことをしたときにこうやってちゃんとあやまってくれる。
「いいよ、結果、ちゃんと帰ってきたし。あ、そうだ、これ、サイフ」
サイフを手渡すと、咲綾はくしゃっと笑い顔を見せた。
「ありがと! 今日、帰り一緒に帰ろ? おわびもかねて、なんでもおごっちゃう」
「言ったね! じゃあめっちゃ高いアイス買ってもらお!」
「まかせて! この間おこずかいもらったばっかりだから」
そういって、けらけら笑いあっていたあたしの横で、空を切るように何かが顔をかすめた。
なんだろう。
ふり返ると、女の人とすれ違ったところだった。もう夏なのに、茶色いトレンチコートをきっちり着て、長い髪の毛をなびかせている。
なんた、髪の毛が当たっちゃったのか。
顔を前に戻そうとして、あたしは凍り付く。
女の人の、足が、ない。
「――えっ」
トレンチコートの裾から少しはみ出た白いスカート。その先に続くはずの足が、なかった。
「……ここみ?」
咲綾の声で、あたしはぱちりと目をまたたかせる。
うそ、いない。
あたしは思わず左右を確認する。
さっきまでそこにいたはずの、女の人がいなくなってる……。
「ここみ? どしたん?」
「咲綾……さっきすれ違った人……」
「すれ違った人?」
「うん……茶色のトレンチコート来てた、女の人」
あたしの言葉に、咲綾は首をかしげた。
「そんな人、いなかったよ」
「――ウソ」
「ほんとだよ! 誰ともすれ違ってないよ」
そういうと、咲綾は心配そうにあたしの顔をのぞきこむ。