エリートSPはウブな令嬢を甘く激しく奪いたい~すべてをかけて君を愛し抜く~
 母は優しくて、そして芯の強い女性でもあった。病気でつらいはずなのにいつも私と父を笑顔で出迎えてくれて、痛くて苦しい治療に泣きごとひとつ言わなかった。

 そんな母が死に際に泣きながらこう言った。『もっとあなたと紅葉、三人で一緒に行きたかった』と。

 その言葉とともに『幸せをありがとう。ふたりとも、これからも幸せに生きてね』と言った母の言葉はきっと一生忘れられないと思う。

 父と母を看取り、残ったのは多額の借金だけ。父は母の死の悲しみを乗り越えるように必死に働き続けた。

 幸いなことに私は奨学金を利用して大学に進学することができ、アルバイトをしながら多くのことを学ぶことができた。

 父も次第に心の傷が癒え、貧しいながらも楽しくふたりで暮らしていたのも束の間、幸せはそう長く続かなかった。

 無理をして働き続けた父の身体は気づいたときにはボロボロとなっていて、倒れてしまったのだ。しばらく安静が必要で働くことができなくなっても、借金の返済は待ってくれない。

 どうしようもない状況の中、手を差し伸べてくれたのが久次さんの父だった。
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