忘れさせ屋のドロップス
 遥と渚さんが出て行った隙に、私は食器をスポンジで擦っていた。

 泡の粒は一粒から始まって、あっと言う間に無数に膨れ上がる。

 私の心の中みたいに。

 小さな不安は多く膨れ上がって息が出来なくなりそうだ。

(遥……早く帰ってこないかな)

 楽しいと感じる居心地の良い時間はあっという間で、こうして一人になると、不安で堪らなくなる。

 遥に依存ばかりしちゃいけないのに。遥のそばに居ないと息苦しくなる。


 期待していたカランと扉の開く音に思わず、すぐに声が出た。

「遥、おかえりなさい」

 パーティションから飛び出した私は、その人物の突き刺さるような目線に思わず、目を背けたくなった。


「遥は?」

 白いシフォンのブラウスにフレアの淡い紫色のスカート姿の華菜が、私を睨んでいた。


「あ、今、渚さん、お姉さんの所です」

「そう、ちょうど良かった」

 華菜は、私との距離を、詰めると、『summer』の席に腰掛けた。

「座りなさいよ」

 おずおずと私は『spring』の席に座った。

「遥のこと、どう思ってんの?」

 唐突に聞かれた質問に私はすぐに答えられなかった。

「あの……私……」

「まさか……好きだなんて、言わないわよね?大体、勘違いしないでよね、遥は優しいから、住む所に困ってるアンタを追い出せなくて、此処に置いてくれてるだけなんだから!」

 俯いた私を見ながら、華菜が苛立ってるのが分かった。
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