忘れさせ屋のドロップス
「……分かってます。でも……遥の側に居たくて……遥と居ると……ほっとするから」

「何それ。アンタの自分勝手な自己満足に遥を巻き込まないで!依存したいならアンタの顔なら、いくらでもその辺の男探せばいいでしょ!」

 私は両手を、握りしめた。

 遥の負担にしかなってないことなんて分かってる。

 それでも遥の側に居たい。もう自分でもどうしたらいいか分からない。
   
「ごめん……なさい……できない」
 
「ふざけないで!何なの?遥のお荷物にしかなってないくせに!……てゆーか、遥と毎日一緒に寝てて、一度でも遥に抱かれたことある?」

「え?」

「……遥の寂しいも苦しいも、心も身体も受け止めたことないアンタに、遥の側にいる資格ないと思うけど」

 目線の先のテーブルの木目が滲みそうになる。

ーーーー確かにそうだ。遥は、一度も私に手を出したことはない。

 抱きしめることはあっても、それ以上はしない。この間、無理やりベッドに押し付けられた時も、遥は私を抱くつもりなんて始めからないように思った。

 むしろ、私に離れて欲しいかのようにワザと乱暴にするフリをして、遥から遠ざけようとしてるみたいに見えた。


「ちょっと、泣かないでよね?アタシを悪者にする気?間違ったことなんて言ってないし」

 私は、無理やり涙を引っ込めて、華菜の目を見た。
 
「何よ?言いたいことあれば言いなさいよ」

華菜は、私の瞳をじっと見ていた。

ーーーー遥のこと本気なんだ、そう思った。ちゃんと言わないと華菜に失礼だと思った。

「私……遥のことが……好きです。遥は……私の事なんて何とも思ってなくて、私の我儘で……。カナ、さんにも不愉快な思いをさせて、ごめんなさい。……でも、……今は、今だけでいいから、遥の側に居させて下さい」

 華菜は、私の言葉を聞き終わると、静かに口を開いた。

その言葉に、私は一瞬呼吸を忘れた。
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