忘れさせ屋のドロップス

「で?なんだよ、姉貴」

「うん、ちょっとだけ気になってることあってさ」

 マグカップに注がれたコーヒーを片手に姉貴が一瞬宙を見た。


「有桜ちゃん、どのくらいドロップス食べてる?」 

「え?有桜?」

 有桜が俺の前でドロップスを、口にしてるのを俺はほとんど見たことがない。

 ただ、多分口にしてるとしたら、俺が居なくて、泣きそうな時にドロップスを食べて、泣くことを忘れて、寝てるのかなとは思っていたけど。

「なんで、それ聞く訳?」

 嫌な予感がした。姉貴の勘はよく当たるから。


「この間、うちに来たときね、有桜ちゃんドロップス食べながら来たんだよね?……遥が眠ってる間に来た時」

ーーーー俺が有桜を抱きしめたまま眠ってしまった時だ。

……俺が無理やりベッドに押し倒したことを忘れたかったのだろうか?それとも、あの女に言われたことがショックだったのだろうか?

 どちらにしても、俺の前でドロップス食べる所をあまり、というかほとんど見たことがない。

 ベッドサイドにドロップスがあることは言ったが、てっきり食べてないのかと思ってた。

 有桜がドロップスを食べる理由って何だろう……俺が原因?俺に言えない何か?

「何?思い当たることあんの?」

「いや。それで?有桜何か言ってた?」

「いや、口を開けば、遥のことばっかりだったよ。遥のドロップスの量も気にしてるみたいだったし、ま、女遊びの件は解決してアタシもほっとしてるけど」  

 姉貴がマグカップをコトンと置く。

「遥用に作ったモンだし、遥はドロップスに耐性がついてるはずだから、副作用はまず出ないはずけど、有桜ちゃんは違う。分かってるよね?」

「……分かってる。……忘れたくないモノを忘れたりするんだよな?」

「うん。気をつけて見てやんなよ。あと……遥、有桜ちゃんの事どう思ってる?」

「何だよ、急に」
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