忘れさせ屋のドロップス

「……気づいてると思うけど、有桜ちゃん、遥のことが好きだから。……しんどそうだった。遥が、ドロップスやめられないのも、女の子と適当な関係持つ事も、……自分を見てもらえることがない事も」

ーーーー自分を見てもらえることがない?


……俺は下唇を噛んだ。違う、見てるつもりだ。有桜は俺が有桜自身を見てないと思ってるのか?

俺は……

「俺は、……」

姉貴が小さく溜息を吐いた。  


「ドロップス……やめられない?」

「え?」

「……もう、ちゃんと好きになってもいいんじゃない?」  

「俺は……有桜が大切だから……ちゃんと好きになれるか、好きだってちゃんと気持ちを伝えられる日がくるのか分からない。でもちゃんと見てるし、側に居て欲しいって思ってる……泣かせたくなくてさ、少なくとも俺のせいで」

「それ言った?」

 思わず姉貴に目線を合わせたら、姉貴がふっと笑った。

「想ってても言葉にしなきゃ伝わらないよ。人間って、その為に言葉を創ったんだから」

 小さい頃よく俺にしたみたいに、姉貴が俺の頭をくしゃっと、撫でた。

「子供扱いすんなよ」

 俺は気恥ずかしくて、そっぽを向いた。

「アタシにとっては、いつまでも子供みたいなモンだし、大事な弟だよ。この世でただ一人のね。遥の幸せだけを願ってんの」


 ツンと俺の額を弾きながら、笑った姉貴の顔が、死んだ母さんに見えた。


ーーーー有桜ともう一度きちんと話をしよう、そう思ってたんだ。


俺は後悔ばかりだ。

いつも失ってから気づくから。

大切だったのに。
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