忘れさせ屋のドロップス

 車に乗って、暫く走らせても、遥は何も話さなかった。

 先に遥が口を開いたら、全てが終わってしまう気がして、あたしは、先に口を開いた。   

「遥、どこ行くの?夜景には早いでしょ。あたし、水族館行きたいんだけど」

「あー……水族館ね、てゆーか、前も行ったじゃん」

「遥と行く水族館なら100回でも行けるもん」 

 何だそれ、と、遥がふっと笑った。


「連れて行ってくれる?」

「……華菜、話があるから」


ーーーー心臓が凍りつきそうだった。遥が何の話しをしようとしてるのか、その話しを聞いたら、あたしはどうなってしまうんだろう。


「水族館連れてってくれたら聞いてあげる」

 いつもみたいに笑った私に、いつもみたいに遥はくしゃっと頭を撫でてくれなかった。 

遥の気持ちはもう変わらないんだろう。

じゃああたしの気持ちは?
あたしの気持ちだって変わらないのに、遥は私の手をすり抜けて遠くへ行ってしまう。
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