忘れさせ屋のドロップス
一瞬聞き間違いか、母親の嘘かと思った。

「有桜?違う、よな?」

思わず俺は、有桜の肩に触れて、こちらを向かせる。

「ごめ……なさっ……ひっく……」

嘘ではないことが、有桜の涙ですぐに分かった。

「呆れた子、嘘ついてたのね、この子は今年高校3年生です。18になったとはいえ、まだ子供です、わかりますよね?この意味?」


そんな……。有桜が高校生?確かに年齢より少し幼い顔立ちはしてたが、高校生だとは思わなかった。

「さぁ、帰るわよ、学校の先生からも連絡頂いてるのよ、このままじゃ卒業できない。私に恥かかせないで」

「やだっ!遥と居る!」

「来なさい!」

母親が、有桜の手首を再度掴んだ時だった。


「はる……か……はっ……」

「有桜?どうしたの?」

母親が戸惑った顔をした。

有桜が、母親から逃れるように、手首を振り払うと、俺にしがみついた。   

「はっ……はぁ……はっ……」

「有桜?大丈夫か?」

有桜の手を握るが震えが収まらない。呼吸もおかしい。

ーーーー過呼吸だ。


「有桜っ!有桜っ!」

「有桜ちゃん!」

「はぁ……はっ……遥…………」

有桜が、小さく俺の名前を呼んで、瞳を閉じた。
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