忘れさせ屋のドロップス
「……お誕生日おめでとう」

お母さんは、私の前にティーカップをことりと置くと、少しだけ笑った。

「覚えて……くれてたの?」

お母さんから、おめでとうと祝ってもらったのはいつぶりだろう。

「忘れる訳ないでしょう。自分が産んだ子なのに」

嬉しくて、マグカップにポタンと涙が一粒が落ちた。


「泣き虫は遺伝かしら……。ごめんね有桜……」

「お母さん……?」

「……ずっと、有桜に酷くあたってごめんなさい。……お父さんと上手くいかなくて離婚して、あなたを一人で立派に育てていきたいのに自信がなくて……。寂しい気持ちを他の人を頼ることで埋めて、何もかもを有桜のせいにしてた……弱いお母さんでごめんね……」


ーーーーお母さんの涙を、私は初めて見た。肩を震わせて泣くお母さんが、私と重なった。

お母さんが一人でどれほど不安の中、私を育てようと必死だったのか、初めてわかった気がした。

「私も……ごめんなさい……お母さんも大変だったのに……お母さんのせいにしてた。勝手に家出までして……子供でどこにも行くとこなんてなかったのに」

ーーーー本当は心配して欲しかった。有桜が居ないとってお母さんに必要として欲しかったんだと思う。

お母さんが私の涙がをそっと掬った。


「もういいのよ。……泣かないで。……お母さんね、約束したから」 

「え?」

「……遥くん、だったかしら」

お母さんから、遥の名前が出たことに驚いた。
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