忘れさせ屋のドロップス
有桜が靴を履いて、玄関扉が閉まる。私は暫く、閉じられた玄関扉を眺めていた。

家を出ていた3ヶ月間、有桜は以前より強くなった。

自分の意見も一緒懸命伝えようとするし、何より笑顔が増えた。辛い時もぐっと堪えて、前を向こうとする。

相変わらず泣き虫だけれど、それでも、有桜は変わった。それはきっとあの子のおかげなんだろう。あの子と暮らした日々が、有桜の心にも表情にも変化をもたらしてくれた。 


それだけ、あの子は有桜のことをちゃんと見て、ちゃんと想ってくれてたんだという事だろう。

あれから、有桜は、一度もあの子の名前を口にしなかった。

ーーーー有桜も気づいていたんだと思う。あの子がどんな思いで、どうして有桜を突き離したのか。有桜の側に居ない選択をしたのか。それは全て有桜のために。

私は、スマホを手に取り、月に一度、有桜の様子を伝えるだけの相手に、短くメッセージを送った。

「……プレゼント、喜んでくれるかしら」
 
少し冷めた紅茶を飲みながら、窓からみえる遠くの桜に、娘を重ねながら、私は目を細めた。
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