忘れさせ屋のドロップス
ふいに呼ばれた気がして、振り返ろうとした途端、強い春風に吹かれて、薄紅色の花弁が粉雪みたいに舞い落ちていく。
思わず目を瞑ってから、涙がこぼれたのに気づいた。
ぼやけた視界のその先に、黒く染められた柔らかい髪が揺れた。
「此処いい?」
まるで昨日も会ったかのように、そう言って私の隣に座る。
ーーーー声が出なかった。赤茶の髪は黒く染められて、首元の白いシャツにはネクタイが締められてる。声だけは変わらない。少し高めの甘い声。
「遥……?」
夢かと思った。遥の指先が私をおでこをツンと突いた。
「んな顔すんな、お化けじゃねぇし」
遥からも、カロン……コロン、とドロップスを、転がす音がした。甘い懐かしい匂いに、また一つ雫が溢れる。
「泣き虫」
「……泣いてないもん」
泣いたら遥がぼやけてしまうから、私はなんとか涙を引っ込める。
見上げた遥は、雑にネクタイを緩めた。
「遥、仕事始めたの?」
「まあな、今日は慌てて有給もらったけど」
「え?」
思わず目を瞑ってから、涙がこぼれたのに気づいた。
ぼやけた視界のその先に、黒く染められた柔らかい髪が揺れた。
「此処いい?」
まるで昨日も会ったかのように、そう言って私の隣に座る。
ーーーー声が出なかった。赤茶の髪は黒く染められて、首元の白いシャツにはネクタイが締められてる。声だけは変わらない。少し高めの甘い声。
「遥……?」
夢かと思った。遥の指先が私をおでこをツンと突いた。
「んな顔すんな、お化けじゃねぇし」
遥からも、カロン……コロン、とドロップスを、転がす音がした。甘い懐かしい匂いに、また一つ雫が溢れる。
「泣き虫」
「……泣いてないもん」
泣いたら遥がぼやけてしまうから、私はなんとか涙を引っ込める。
見上げた遥は、雑にネクタイを緩めた。
「遥、仕事始めたの?」
「まあな、今日は慌てて有給もらったけど」
「え?」