忘れさせ屋のドロップス
遥は吉野さんの配達をもう長い間しているのか、手際が良く配達先をまわり、あっという間に車の荷台のお豆腐と油揚げが空っぽになった。
あとは後部座席のトレー三つ。
「もうすぐ、最後の小料理屋な」
そう言うと、遥が手元の時計に目をやった。
「もうすぐ十二時じゃん」
遥が、どうりで腹減る訳だと呟いた。
「ついでに飯食ってこーぜ」
「え?その小料理屋さんで?」
「そ。塩サバ定食が美味いんだよな」
塩サバ定食の、香ばしく焼けたサバの匂いを想像して、なんだか急にお腹が減ってくる。
「降りるぞ」
よく見たら、もとの商店街の近くまで車が戻ってきていることに気づいた。
昔ながらの古民家を、リノベーションしたようで、外壁は黒く塗り直されて真新しく、花柄の可愛らしい暖簾が掛けてある。入り口横に小さく掲げてある看板には
『小料理 はなや』
と白地のプレートに筆文字で描かれてあった。
車を店先横の砂利道に停めると、遥がお豆腐と油揚げのトレーをまとめて抱えた。
「有桜、開けて」
言われるがまま、小料理屋のすりガラスの横引き戸をガラリと開けた。
先を行く遥の後をついていく。
「有桜、そこ座ってて」
店内は木製の机と椅子が並び、木の温もりがお店全体の雰囲気をよりあたたかく感じさせる。お昼時ということ、もあってスーツ姿のサラリーマンや事務職のOLさんで賑わっていた。
遥が指差した、一番端の2人掛けの机に私は腰掛けた。机に置かれていたお品書きに目をやるとお昼の一番人気メニューが「塩サバ定食 890円」と記載されていた。
ふわりと香るお出汁の匂いと、焼き魚の匂い。炊きたての白ごはんの匂いも混ざる。和食屋さん特有の匂いに思わず頬が綻ぶ。
「やだ!なんでよー」
厨房からどこかで聞いた、少し鼻にかかった声が聞こえてくる。
あとは後部座席のトレー三つ。
「もうすぐ、最後の小料理屋な」
そう言うと、遥が手元の時計に目をやった。
「もうすぐ十二時じゃん」
遥が、どうりで腹減る訳だと呟いた。
「ついでに飯食ってこーぜ」
「え?その小料理屋さんで?」
「そ。塩サバ定食が美味いんだよな」
塩サバ定食の、香ばしく焼けたサバの匂いを想像して、なんだか急にお腹が減ってくる。
「降りるぞ」
よく見たら、もとの商店街の近くまで車が戻ってきていることに気づいた。
昔ながらの古民家を、リノベーションしたようで、外壁は黒く塗り直されて真新しく、花柄の可愛らしい暖簾が掛けてある。入り口横に小さく掲げてある看板には
『小料理 はなや』
と白地のプレートに筆文字で描かれてあった。
車を店先横の砂利道に停めると、遥がお豆腐と油揚げのトレーをまとめて抱えた。
「有桜、開けて」
言われるがまま、小料理屋のすりガラスの横引き戸をガラリと開けた。
先を行く遥の後をついていく。
「有桜、そこ座ってて」
店内は木製の机と椅子が並び、木の温もりがお店全体の雰囲気をよりあたたかく感じさせる。お昼時ということ、もあってスーツ姿のサラリーマンや事務職のOLさんで賑わっていた。
遥が指差した、一番端の2人掛けの机に私は腰掛けた。机に置かれていたお品書きに目をやるとお昼の一番人気メニューが「塩サバ定食 890円」と記載されていた。
ふわりと香るお出汁の匂いと、焼き魚の匂い。炊きたての白ごはんの匂いも混ざる。和食屋さん特有の匂いに思わず頬が綻ぶ。
「やだ!なんでよー」
厨房からどこかで聞いた、少し鼻にかかった声が聞こえてくる。