忘れさせ屋のドロップス
「……わぁ」
空を見上げると雲ひとつない鮮やかな水色に真っ白な飛行機雲がかかっている。
桜越しのその空は、淡い薄紅色の無数の桜が揺れて、咲って、その花びらは淡く粉雪のように煌めき舞いながら、空のキャンパスを埋め尽くしている。
「綺麗だな」
車の荷台に積んであった、レジャーシートを広げると、遥はゴロンと寝転んだ。
「有桜も、そーゆー顔するんだな」
「え?」
思わず夢中でスマホ片手に、写真を撮っていた私をみて、遥が笑った。
「嬉しそうだなって、そんだけ」
遥は、ドロップスを転がした。途端に、何だか顔が熱くなる。
「……ちゃんと見たことなかったから」
「え?桜?」
「うん」
「名前についてんのに?」
あ、そうだ。昔一度だけ聞いたことがあった。生まれた時、桜が満開で、それだけでも幸せな気持ちになったのに、私が生まれて、
もっと幸せな気持ちになったって。
ーーーー今と全然違う。
「口開けろよ」
「え?」
遥に言われるがままに、ドロップスを口に放り込まれる。
溢れそうだった雫は、落ちてしまう寸前で『忘れて』なんとか引っ込んだ。
「ごめん」
ドロップスを転がす私を見ながら遥が、ぶっきらぼうにそう言った。
「遥のせいじゃないから」
カロン……コロンとドロップスを転がす音が重なる。
「さっきの送って」
ぽいとコチラに遥のスマホが渡される。
液晶画面にはラインのQRコードが浮かんでいる。
「え?」
「何?それ俺の。一緒に住んでんだし、連絡先知ってた方が良くね?俺もすぐ連絡できて楽だし」
綺麗に撮れたものを数枚、遥に送る。
遥にスマホを返すと、すぐに既読になった。
「綺麗に取れてんじゃん」
春風が桜の花を撫でて攫って、花びらが粉雪のように空に向かって舞い散っていく。
その風景があまりにも美しくて、私も遥の横にコロンと横になった。
「桜ってさ、有桜に似てんな」
ずらして掛けていたサングラスを外して、ぽいと置くと、その薄紅色を魅入るようにして、遥が呟いた。
「私?似てる、って?」
「なんかさ、儚い」
思わず遥を見た。
「弱い、ってこと?」
「違う。笑ったと思ったら、すぐ泣きそうになって、思ってること言わない感じとか、そーゆーかんじ」
少しだけ口角を上げると、ふっと笑った。
「もう少しだけ、自分出してもいいと思うけど?俺みたいに」
思わず私も笑った。
暫くその、儚い淡い薄紅色の世界を私は、ただただ眺めていた。
私に……似てるのかな。
桜は、綺麗なのに、どこか寂しそうで、散り落ちた花びらは、幾度も重なって涙が染み込んだ痕みたいだ。
また泣きそうな自分に気づいて慌てて遥を見た。遥の前で泣きたくないから。
長い睫毛は閉じられて、気持ちよさそうに春風に吹かれて遥は眠っていた。
寝顔はなんだか幼く見えた。それだけ、遥も普段は強がっているのかも知れない、なんて思った。
会ったばかりなのに、少しだけ遥のことを知りたいと思う自分がいた。
空を見上げると雲ひとつない鮮やかな水色に真っ白な飛行機雲がかかっている。
桜越しのその空は、淡い薄紅色の無数の桜が揺れて、咲って、その花びらは淡く粉雪のように煌めき舞いながら、空のキャンパスを埋め尽くしている。
「綺麗だな」
車の荷台に積んであった、レジャーシートを広げると、遥はゴロンと寝転んだ。
「有桜も、そーゆー顔するんだな」
「え?」
思わず夢中でスマホ片手に、写真を撮っていた私をみて、遥が笑った。
「嬉しそうだなって、そんだけ」
遥は、ドロップスを転がした。途端に、何だか顔が熱くなる。
「……ちゃんと見たことなかったから」
「え?桜?」
「うん」
「名前についてんのに?」
あ、そうだ。昔一度だけ聞いたことがあった。生まれた時、桜が満開で、それだけでも幸せな気持ちになったのに、私が生まれて、
もっと幸せな気持ちになったって。
ーーーー今と全然違う。
「口開けろよ」
「え?」
遥に言われるがままに、ドロップスを口に放り込まれる。
溢れそうだった雫は、落ちてしまう寸前で『忘れて』なんとか引っ込んだ。
「ごめん」
ドロップスを転がす私を見ながら遥が、ぶっきらぼうにそう言った。
「遥のせいじゃないから」
カロン……コロンとドロップスを転がす音が重なる。
「さっきの送って」
ぽいとコチラに遥のスマホが渡される。
液晶画面にはラインのQRコードが浮かんでいる。
「え?」
「何?それ俺の。一緒に住んでんだし、連絡先知ってた方が良くね?俺もすぐ連絡できて楽だし」
綺麗に撮れたものを数枚、遥に送る。
遥にスマホを返すと、すぐに既読になった。
「綺麗に取れてんじゃん」
春風が桜の花を撫でて攫って、花びらが粉雪のように空に向かって舞い散っていく。
その風景があまりにも美しくて、私も遥の横にコロンと横になった。
「桜ってさ、有桜に似てんな」
ずらして掛けていたサングラスを外して、ぽいと置くと、その薄紅色を魅入るようにして、遥が呟いた。
「私?似てる、って?」
「なんかさ、儚い」
思わず遥を見た。
「弱い、ってこと?」
「違う。笑ったと思ったら、すぐ泣きそうになって、思ってること言わない感じとか、そーゆーかんじ」
少しだけ口角を上げると、ふっと笑った。
「もう少しだけ、自分出してもいいと思うけど?俺みたいに」
思わず私も笑った。
暫くその、儚い淡い薄紅色の世界を私は、ただただ眺めていた。
私に……似てるのかな。
桜は、綺麗なのに、どこか寂しそうで、散り落ちた花びらは、幾度も重なって涙が染み込んだ痕みたいだ。
また泣きそうな自分に気づいて慌てて遥を見た。遥の前で泣きたくないから。
長い睫毛は閉じられて、気持ちよさそうに春風に吹かれて遥は眠っていた。
寝顔はなんだか幼く見えた。それだけ、遥も普段は強がっているのかも知れない、なんて思った。
会ったばかりなのに、少しだけ遥のことを知りたいと思う自分がいた。