忘れさせ屋のドロップス
白いスーパー袋を手渡される。中を覗くと茶色の封筒と、お豆腐、油揚げ、豆乳が二つ入っていた。

「あの、これ」

「はると食べて頂戴、……あと、この封筒は、はるに。あの子、いつも受け取らないから」

私の手をそっと包むようにして渡された、皺皺の掌がとても温かった。 

「あの、……ありがとうございます」

「はるは、いい子を見つけたね」

「あ、ち、違います。……私は遥の家に短期間住まわせてもらってるだけで」

私なんかが、遥の恋人だなんでとんでもない。

「そうなのかい?なつきちゃんに少し似てるね。……はるは、ここ二年ずっと一人だったからね、支えてやって頂戴」

なつき……ちゃん?さっき遥も……。

吉野さんが私の肩に手を乗せた。あったかくて、優しい気持ちになる。

「有桜、帰んぞ」

背の高い遥が、長身を折り畳むようにして店先の暖簾から顔を出した。

「あ、わかった」

出てきた私を見て、遥がすぐにスーパーの袋に気づいた。

「あ!もう吉野さん、いいって!」

「はるのじゃないよ、ありさちゃんにあげたんだから」

木製椅子に腰掛けた吉野さんが、笑って手を振った。

「どーも。じゃあまた来週」

暖簾を潜って店を後にしてすぐだった。

「はい」

一歩前をいく遥が、後ろ手に手を差し出した。

「え?」

遥が振り向いて、私からスーパーの袋を取り上げる。

「これ、持ってやるって言ってんの」

ぶっきらぼうにそれだけ言うと、ビルの階段を上がっていく。

(軽いのに……。)

慌てて私は、遥の背中を追いかけた。
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