忘れさせ屋のドロップス
「有桜、飯上手じゃん」

隣の遥もパクパク食べている。

「そうかな?……あんまり自信はないけど」 
いつも一人分しか作らないから。あの人はいつも私とは食べたがらないから。

余り野菜しか入っていないチャーハンも、あっという間に二人とも平らげてくれた。食べてもらえる人が居るのは、やっぱりいいなと思う。

「明日から飯担当な」

「遥より、上手に作れるかわかんないけど」

遥が、ご馳走様でしたとプレート を重ねたのを見て受け取る。

「いーなー!俺も渚と住みてー。毎日一緒に飯食って、一緒に寝て、お前らみたいに、おはようのキスで目覚めたいんだよ!」

「あんな、秋介、そーゆーのじゃないの」

「珍しいな、こんな可愛い子、遥がまだ押し倒してないの」

「姉貴と一緒だな。どんな目で俺を見てんだよ!」

今夜あたりかな?と煽るように口角を上げた秋介に、ばーかと遥が呟いた。

「で、聞いてやるよ。何で?」

早くも三本目のビールのプルタブを開けて一口飲むと、暫く間があって、神妙な顔で桐谷さんがぽつんと呟いた。 

「結婚したいって言った」 

遥が、薄茶色の瞳を大きく見開いていた。

「……まじで。で?姉貴は」

「考えさせて欲しいって」

「あー。……そう」 

「有桜ちゃん、どう思う?」

「えっ、あの」

「そんなこと有桜に聞いてやんなよな、高校卒業したばっかなんだから」 

遥が、ドロップスを口に放り込む。
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