忘れさせ屋のドロップス
「ええ!!いやー、若いなとは思ってたけど。あーなるほどね。だから、遥が手を出さない訳だ」

「言ってろよ」 

ニヤついた秋介を横目に、面倒臭そうに遥が答えた。

「で、ライン3日スルーね」

そう再び指摘されて、桐谷さんは、肩を落としながら、スマホの画面を確認している。

「返事こねーな……会いてーな」

3本目のビールも既に空っぽになっていた。
桐谷さんのスマホがブルっと震えた。液晶画面には『渚』の文字が浮かんでいた。

「あ」

齧り付く様にスマホを眺めている。遥を見ると、遥は怪訝な顔で、桐谷さんの様子を伺っていた。

「遥……」

「な、なんだよ」

「飲み行こ」

黙って液晶画面を向ける。

『考えるから。暫くは連絡してこないで』

遥のドロップスを転がす口が止まった。

「あー。まじか。……有桜、先寝てろ。ちょっと秋介と飲んでくる」




ハイボールロックを二杯頼むと、バーのカウンターで先に口を開いたのは秋介だった。

「渚、なんでだろうな……」

隣で女々しく、スマホを覗き込んでいる男に俺は聞きたいことがあった。

有桜の前では聞けなかったし、秋介も言わなかったから。この時期に秋介が訪ねてきたのは、理由があるから。

「てゆーか、何で今なんだよ」 

秋介が煙草に火をつけながら、俺をじっと見た。
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