忘れさせ屋のドロップス

「渚、29だよ、俺としてはちゃんとケジメつけたいんだけどね」 
「ケジメねぇ……」

「俺は渚以外の女、嫁にする気ないからさ。あんないい女、この広い地球にさ、一人しか居ないよ」
「ごちそーさま」

俺は.グラスのハイボールを一気に飲み干した。多少飲まないと、あの事をちゃんと聞けそうもなかった。

「あと、《《姉貴のことだけじゃねー》》よな。俺んとこ来たの」

アルコールが程よく回ってくる。

ニコチンを肺いっぱいに吸い込んで秋介が大きく吐き出した。

秋介のふざけた顔が消えるのがわかった。

「《《3回忌》》のこと言ってんの?」

ーーーー思わず俺は唇を噛んだ。

「形だけ墓参りにはいくよ。でもあそこにはいないから、もう来なくて大丈夫」
「わかった」

「煙草、いる?」

「吸わない」

「すごいな、ちゃんと禁煙続いてんだ。俺は真似できないな」 

 白い煙を吐き出しながら秋介が丸椅子で脚を組んで、唇を持ち上げた。

「お前もやめろよ、禁煙してくれって言われてただろ」

 秋介は前を向いたまま白い煙を吐き出している。

ーーーー「……なぁ、遥。《《いつまで》》?」

 唐突に聞かれたその言葉に俺はすぐには答えられなかった。

 秋介の真面目な顔を横目に、バーテンから差し出された二杯目のグラスを眺めながら手元で傾けた。カランと氷が重なって堕ちる。

「いつまで、那月追っかけんの?」

 無意識に俺はいつも追いかけてる。会えなくても、触れられなくても、俺はどうしたって忘れられない。那月を。
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