忘れさせ屋のドロップス
2人が出て行ってから30分程。扉がカランと開いた。遥にしては早いと思ったが、洗い物を中断して、私は扉に向かった。
「あ」
「ただいま、有桜ちゃんの顔みたくて寄っちゃった」
スーパーの袋片手にスレンダーな美女が微笑みかえる。いつもより少しだけ疲れてみえた。
「おかえり、なさい。渚さん」
「はいこれ、食材。遥とたべて」
「あ、あの」
渚さんからは、先日すでに、遥に何か作ってあげてと食費を受け取っていた。お給料だって、まだ何もしていないのに前払いさせてと頂いたばかりだ。
「気にしないで。遥の食事やら洗濯やら、お願いしてごめんね」
渚さんは、「summer」と書かれた木製チェアーに腰掛けた。私もコーヒーを二人分注いで真向かいに座る。
「そんな、全然です。ご飯は食べてくれる人がいた方が有難いですし、洗濯は私のも一緒にするだけなので」
「遥、洗濯苦手だからな。する気がないのかもしれないけどね」
呆れた様子の渚さんが、蓋が閉まらないほどに遥の洋服で膨れ上がっている洗濯機を指差した。