忘れさせ屋のドロップス
 鍵を掛けずに開けたままにしていた扉からカランと音が聞こえた。

 私は慌ててシャワールームから飛び出した。

「おかえりなさい」
「あー、ただい」

 そこまで言って遥が私を見ながら、一瞬動きを止めた。

スウェット姿の濡れた髪の毛の私を暫く見た後、小さくため息をついた。

「あんな、シャワー浴びんのはいいけど、鍵位閉めとけよな?」 

「だ、だって、遥がもう帰ってくると思ってたから……」

「危機感ってもんが、ねーな」

 遥はあっという間に、寝室の扉から顔を出していた私の前に立つ。

ーーーー扉を閉めるとそのまま、私の片方の手首を扉に、押し付けた。

「なぁ」

 遥の吐息が耳元にかかる。お酒の匂いとドロップスの甘い香り。 

「な、に……」

 思わず遥から離れようと、掴まれていない方の腕で、遥の胸をトン、と突いた。
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