忘れさせ屋のドロップス
ーーーー目を開けると、遥はこちらを向いたまま静かに眠っていた。ブラインドからは眩しい朝陽が差し込んで、遥の赤茶の髪が光って見えた。

 起き上がって白いブランケットが肩から落ちて気づく。遥が掛けてくれたのだろう。

 慌てて身一つで眠っている遥に、黒の毛布と白のブランケットを両方掛けた。遥の枕元に一枚写真が置かれている。

『遥とお花見』

 写真の裏側には女の子の文字でそうマジックで書かれていた。日付は二年前の今の時期だ。
手に取ると、私は思わず裏返していた。


……幸せそうな笑顔の二人が写っている。遥と私の知らない、とても綺麗な女の子。アルファベットで『HARU 』『NATSU』とマジックで書かれている。

 遥は今より少し幼くみえる。黒髪に白いシャツに紺色のネクタイ姿……スーツ姿だ。そういえば渚さんが、以前、遥がインテリア会社で働いていたと言っていた。

 女の子の方は、淡いベージュのワンピースで遥に頬を寄せて幸せそうに微笑んでいた。……遥の忘れられない人は、この人なんだろう。

 名前は、なつきさん……。

 遥のこんな幸せそうに笑う顔を見たことなかった。
 私は写真を裏返すと元の枕元にそっと置いた。
   
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