忘れさせ屋のドロップス
「初めはただ、何処にも行くとこがないって言うあの子をほっとけなかった。あの子ね、聞いたことないし言わないけど、しんどいと思うんだ。……医者の勘って言葉キライだけどね。……何だろう。……遥なら、あの子の事、わかってあげられるかもって思ったし、有桜ちゃんなら、遥のこと、救ってくれるんじゃないかな、なんて。」

「傷の舐め合いにならないか?」

「うん……そこがね、あたしも心配。どちらも自分を大切にしない子達だからさ」

「ま、俺らが見守ってやればいいんだよ、鬱陶しいくらいに、そばで」

 渚が俺の目を見て笑った。俺は、渚の笑った顔が一番好きだ。

「あと……今日は、アタシは行けなくてごめん」

「いや、遥来てたし」

「……来るなって言っても、遥は行くだろうね」

「アイツ、墓の前で寝てたよ」

 どうしようもないね、と渚が呆れる。

ーーーー俺はポケットに手を突っ込んだ。

「これ……」

 この3週間ずっと持ち歩いてた小さな箱。
 箱を開けて渚の目の前にコトンと置いた。

「……秋介……?」

「貰ってくれる?」

 渚が俺を驚いたように見て、そのまま視線を小箱の中に移した。

渚の薬指に合うように、寝てる渚の指を測った時のことを思い出す。起こさないように、渚の寝顔を見ながら、俺はただ、幸せだった。

「俺は、ずっと一緒に居たい。……渚は?俺じゃ嫌か?」 

「狡い質問だな」 

 渚が困ったように笑った。

「嫌か嫌じゃないかなら、勿論嫌じゃないよ。ただ、ずっと一緒にいることが、この先も良いことなのか悪いことなのかは分からない。……決めきれない。弱いよね」

「弱いことの何が駄目?それにさ、良いことも悪いことも2人ならって思ってるよ、俺は。大体、俺は渚が好きなことに熱中してる姿が好きだからさ。俺よりも何よりも、遥と研究。今に始まったことじゃないだろ?それの何が心配?……支えるから……支えさせて欲しいんだよ」

渚が、ふいと俺とは反対側に顔を向ける。

ーーーーその理由はわかってる。強がりな渚は今だに俺にさえ、泣き顔を見せない。

「……なぁ、今日泊まってもいい?」

 あえて覗き込むようにして渚を見る。

「痛って!」

 渚のパンプスで脛を蹴られる。痛みを堪えながら、俺は、思わず笑った。


ーーーーあたし、全然素直じゃないから。
質問に困ったら、一回はオーケー。二回はノーだから。

高校生だった俺が、大学生の渚にして告白した時、渚はそう言って、隣にしゃがみ込んでいた俺の足のつま先を一回踏んづけた。

 好きとかキライとか言わない。甘えたり、頼ったりしない。でも時々、渚は泣くんだ。渚が泣いてる時に側に居るのが俺なら、それが一番幸せだと思う。

 弱さを見せれる相手が俺なら、俺は渚が泣き止むまで、笑うまで、ずっと側にいるから。

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