忘れさせ屋のドロップス
 朝か……。ベッド脇の窓から、ブラインド越しに朝陽が差し込んでいる。  

「え……」

 起き上がって、隣に遥が眠っていて驚いた。 

 昨日、遥を待ってダイニングテーブルで座ってて、そのまま意識がなかったから。夜、帰ってきた遥が運んでくれたんだろう。

 思わず、頬が赤くなった。男の人に抱えられたことなんてない、ましてや遥に抱えてもらうなんて。

(重たくなかったかな……)

 白いブランケットに丸まって寝てる遥に、黒の毛布を重ねて掛けた。

 遥の首元に、女の人がつけた赤い痕を見つけた私は、それを隠すように黒の毛布を遥の首元まで掛け直した。

 遥はどんな気持ちで、見知らぬ女の人と夜を過ごすんだろうか。心がすり減って、遥が遥じゃなくなったりしないんだろうか。

(うなされてなくて良かった)

 静かな呼吸音を繰り返して眠ってる遥の顔が幼く見えて、何だか胸が痛くて、思わず頬に触れていた。





俺はーーーー那月の夢を見ていた。


 俺たちは、高校卒業と同時に一緒に住む約束をしていた。結局一年しか一緒には暮らせなかったけれど。
 俺は、とにかく那月と一緒に居たかったし、卒業後すぐにでも同棲したかった。那月は身体が弱かったから。

 那月の家も両親が居ない。那月が小学生の頃に両親が離婚後、母親に引き取られたが、同じく身体の弱かった母親は病死したと那月が話してくれた。

 五歳歳上の秋介は、そんな那月を養う為に高校卒業後、インテリア会社に就職した。

 家を空けることが多い秋介に代わって、いつも俺は那月のそばに居て守ってやりたかった。

那月は、笑ったと思ったら、すぐに泣き出すようなヤツで、ほんと目が離せなくて。そのくせ勝ち気で、生意気で、俺もガキだったから、よく喧嘩したな。



ーーーー初めて会った日も。



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