忘れさせ屋のドロップス
第5章 忘れたいコト
「いただきまーす」
「いただきます」
朝だけ、私と遥は毎日一緒にご飯を食べる。
私は遥との朝ご飯の時間が一番好きかも知れない。
朝起きて、たわいのない話をしながら、同じ物を食べて、遥の笑った顔を見て、それだけで、ひとりぼっちじゃないなぁって満たされて。
「有桜、どの飯もうまいけどさ、和食が一番上手だな」
昆布で出汁を取った、お野菜たっぷりのお味噌汁を飲み干しながら、遥がニッと笑った。
「あ、吉野さんにお味噌汁の美味しい作り方教えてもらったから、昆布のおかげかな?」
「なるほどな、優しい味する」
「良かった」
今日の朝ご飯は、梅干しのおにぎりとお味噌汁、目玉焼きとウインナー。渚さんが差し入れてくれた苺。
遥は朝からよく食べる。おにぎりも大きいのを3つ作ったのにもう無くなりそうだ。
「有桜、俺、配達行ったら、一回帰るから、昼飯食べ行く?」
「ほんと?うん、行く」
「じゃあまたラインするから、洗濯宜しくー」
すでにデザートの苺を口に放り込みながら、遥がスマホを取り出した。
少しして、スマホの液晶画面を見ながら、遥が難しい顔をする。
「有桜、ごめん、夜は要らないから」
私の一番聞きたくない言葉かもしれない。
「うん、分かった」
私も苺を口に入れる。甘いけど酸っぱくて、やっぱり悲しくなる。
遥が、私の知らない女の人と関係を持つのもそうだけど、なにより、遥が自分を大事にしないのはそうしないと心が持たないからだと私は知ってるから。
何の取柄もない私は、相変わらず遥に何もしてあげられない。一人になるのが怖い私が、ただ側に居るだけ、居させてもらってるだけなのかも知れない。
ご馳走様でした、と私に告げると遥は食器を重ねて流しに持って行く。
いつものように、私の前を通り過ぎるときに、くしゃっと髪を撫でた。
「いい子でお留守番してろよ」