忘れさせ屋のドロップス
 遥にも少しだけ変化があった。

 相変わらず、朝帰りはするけれど、回数は、少しだけ減った。

 あと、気のせいかもしれないけれど、前よりも笑ってくれることが多くなったような気がした。遥が笑うと、すごく幸せな気持ちになるから。私は遥の笑った顔が好きだった。
 


カランーーーー。




 遥に返信しようとスマホを覗き込んだと同時に扉が開く音がする。

まだ着替えてなかった私は、一瞬躊躇したが、慌ててスウェット姿のまま寝室から飛び出した。 


「遥いないの?」

 
 そう短く言葉を発した女性は、淡いブルーのワンピースに身を包み、緩いウェーブのかかった茶色の長い髪を揺らすと、入り口の扉から、私の瞳をじっと見つめた。

 年は渚さんと同じ位だろうか。綺麗な切長の二重瞼に、鮮やかなピンク色のルージュがよく似合っていて、口元には小さなホクロがあった。

 私は嫌な予感がして鼓動が早くなる。

忘れさせ屋、遥への依頼なのだろうか?思わず両手を握りしめた。


「あ……あの、御用件は?」
 
 カツカツとヒールを鳴らしながら、私の目の前まで来ると、女性が私に視線を合わせながら口を開いた。


「あなたは?」

「あ、あの」

「え?まさか、あなた、此処に泊まってたの?よく遥が許したわね。誰なの?」


 私のスウェット姿を見て、綺麗な顔が一瞬で歪んだ。

「私……あの、此処で遥と住んでいて、」

「嘘でしょ?!遥が?あなたみたいな子供と?」

私の言葉を遮りながら、私の顎を目の前の女性が細い指で持ち上げた。


「な、に?離して」

「遥の趣味じゃないでしょ。あの子、大人っぽい子が好きだから。何で遥と住めてるの?
余程身体の相性でも良いわけ?」

 かっと顔が赤くなるのが分かった。わざとだ。私が遥とそんな関係が無いのも、この人にはお見通し、そんな気がした。 

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