忘れさせ屋のドロップス
「やめてっ」

 軽く突くようにして、女の人の腕を振り払うと私は数歩後ろに下がった。

体が少しだけ震えてくる。

ーーーーあの人に、少しだけ似てて。

「ねぇ、あなたみたいな子、遥が本当に必要だとでも思ってる?」

あなたみたいな子。
有桜みたいな子。
要らない。
遥には必要ない。


 目の前があっという間に滲んで何も言葉にだせなくなる。

 カツカツと靴を鳴らして、女の人が私との距離を詰めた。

「あなたのせいね、遥が……」

 女の人の細い指が私の肩に食い込むほどに強く掴んだ。



「おい、何してんだよ」

 カランと扉を開く音と共に、遥の声が室内に静かに響いた。


「は、るか」

 遥は、女性の腕を掴むと私から乱暴に払い落した。

「有桜、大丈夫か?」


 心配そうに遥が私を覗き込んだ。頷くと同時に涙が一粒転がった。

 小さく息を吐くと、遥の表情が変わるのがわかった。


「此処には来んなって言ったよな?」

「私のライン見て、慌てて帰ってくるなんて、遥らしくない」

「ほっとけよ、会うのは夜だけの約束だろ」

「ええ、そうね。でも、何でお昼から会うのがダメなのか、理由は遥が言わなかったから知らなかった。まさかこんな子供と一緒に住んでるなんて」

「お前に関係ねーだろ」

「関係無いとは言わせない。この2年、私たち、持ちつ持たれつの関係だったでしょ」

 遥がイラついたように舌打ちした。
< 78 / 192 >

この作品をシェア

pagetop