忘れさせ屋のドロップス
「勿論!採用決定」 

私の顔をまじまじと見ながら、佐藤渚が再度パチンと指を鳴らした。

「有桜ちゃんって、ちょっと童顔なんだね、かーわい。遥と三歳差か、丁度いいね」

「何が丁度いいね、だよ!ばーか、勝手に決めんな!」

「誰がここの家主よ?家賃も食費も払わないヤツが、誰住まわせようとアタシの勝手でしょ」

佐藤遥が小さな溜息とともに一瞬押し黙った。

「……あー。めんどくせー。マジかよ……おい、有桜!ジロジロ見てんじゃねーよ。俺は見せもんじゃねーからな」

私は思わず佐藤遥を見ていた。と言うより見惚れていたのかもしれない。三つしか変わらないなんて。

話し方はさて置き、色っぽいというか佐藤遥は、自分より随分と大人に見えたから。

こんな、初めて話すような、大人っぽい綺麗な顔した男の人と一緒に暮らすなんて……?
果たしてできるのだろうか。

「じゃあ決まりで。遥いい?」 

「えー」

 あからさまに嫌そうな顔をした。

 確かにそう言われると、話し方はどちらかと言えば歳より少し幼い位かもしれない。

「あー。マジかよ……あっそ、わかったよ……期間限定な!いいよ、住めよ!ただし、仕事はしろよな!あと、見ての通り此処は狭いからな!なんでも共用!ベッドも一つしかねーからな」

佐藤遥が指先した半開きのドアから、ベッドと木製チェストが見えた。柔らかそうな赤茶の髪をくしゃくしゃと掻くと、膝を摩りながら、佐藤遥が、残りのアップルティーを飲み干した。

私は、思わず口がポカンと開いた。佐藤渚がクスっと笑う。

「え、それって」

家出少女……自分で少女と言って良いのかわからないけれど、住まわせてもらう代わりに、此処の仕事と夜の相手を……

「ばーか。お前みたいなの興味ねーんだよ!勘違いすんな」

 私を見ながら、ほとほと呆れた様子の佐藤遥が、ガラステーブルのドロップス缶に手をかけた。その瞳と同じ茶褐色のドロップを口に放り込む。
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