忘れさせ屋のドロップス

 私を労わるように、渚さんが言葉を紡ぐ。

「遥、だよね?」

 私は首をふった。


「私、やっぱり……遥のそばに居られない……」

 なんとか涙を堪えて言葉を絞り出した。

「遥と一緒はしんどい?あたしん家にくる?」

「遥……優しくて、一緒に居ると、ホッとして。でも……私、遥に何もしてあげれないから。私が居ない方が遥は」

「それは違う。有桜ちゃんが居るから、居てくれるから、遥は笑えるんだよ。おかえりって言って欲しいから、遥は帰ってくるんだよ」

「でも、遥は……なつきさんを見てるから。いつも見てるのは……私じゃないから。遥が忘れられない程、好きなのは、なつきさんだから……。分かってるのに。それでも……時々、苦しくてたまらなくなって……遥の側に居たいのに、しんどくて……ひっく」

ーーーーもう限界だったのかも知れない。遥のことが好きで側に居たくて。側に居られるだけで、それで良かったはずなのに。


いつからだろう。私は欲張りだ。

 遥に、少しでいいから……私を見て欲しくて。私だけを見て有桜って呼んで欲しくて。


「遥は?何て言ってた?……遥が有桜ちゃんを那月ちゃんとして見てるって言ってたの?」

「なつきさんの代わりとして私を見てるかも知れないって。……私自身を見れるか自信ないから、一緒に居て……もししんどくなったら、言ってほしいって」

 渚さんは、マグカップに唇をつけながら、少しの間考える事をしているようだった。



ーーーーカランと扉の開く音がして、思わず、身体がびくんと跳ねた。 

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