忘れさせ屋のドロップス
 
 誰かと温もりを分け合って眠ったのはいつぶりだろうか。

 有桜の甘い髪の匂いと温もりを探して思わず手探りで、隣に手を伸ばしていた。


 泣かせるくせに、乱暴にしか優しくしてやれないくせに。何一つ上手く言えやしない俺が、有桜を縛り付けていいんだろうか。


 ゆっくり開いた瞳には、有桜の姿はなかった。
俺は、慌てて起き上がった。



 寝室の扉を開けても有桜の姿はなかった。


 パーテーションの裏側のダイニングテーブルに、チャーハンとメモ書きが置いてある。



『今から渚さんのところに行きます。遥が帰る頃には帰るからね。お腹減ってないかもだけど、しんどくても食べてね。  有桜』  



 有桜の手書きの文字を初めてみた。貴重面な字体で丁寧に書いてある。


 思わず、迎えに行こうかと思った。さっきまでそばに居た温もりが忘れられなくて。


 ダイニングに腰掛けてチャーハンを口に入れた。有桜はどんな気持ちで、これを作ったんだろうか。いつもどんな気持ちで、俺に料理や洗濯をしてくれてたんだろう。


 有桜が居ることが、いつの間にか、俺の当たり前になってたことに気づいた。



 依頼で、女と会うのは、今日で最後にしようと決めていた。

ーーーー有桜が泣くから。俺のことでもう泣かせたくなかった。
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