忘れさせ屋のドロップス
寝室のチェストから少しだけ寂しさを忘れたくてドロップスを放り込むと私はシャワーを浴びた。
シャワールームから出ると、寝室の壁にかかってあるアンティークの時計は夜の0時を回ったところだった。
濡れた髪をタオルドライしながら、ベットサイドに置いてあるガラス瓶を持ち上げた。
ガラス瓶に閉じ込められた、色とりどりの貝殻を眺めながら、あの日を思い出す。遥に強く抱きしめられて、初めてキスをしたことを。
遥の涙を。
その時、スマホがメッセージの受信を告げる。遥だと思って慌ててスマホの液晶を確認した。
ーーーー『有桜、何処なの?迎えに行くから』
渚さんのところに行ってる間、スマホを寝室に置きっぱなしで気づかなかった。
震える指先でスマホを操作する。
私は愕然とした。メッセージが七件、留守電が二件入ってたから。
「っ、……はっ……はっ」
怖くてたまらない。体が震える。呼吸が乱れて、途端に苦しくなる。
ーーーーリリリリリン……リリリリリン。
スマホから警告音のように着信を告げる音が鳴る。
あの人の名前が表示されたスマホを私はカチャンと落とした。
手の力も足の力も入らなくなってベッドの前でしゃがみ込む。警告音は鳴り止まない。
ーーーー私は耳を塞いだ。怖い。怖くてたまらない。
涙が溢れて、呼吸はますます苦しくなる。一人真っ暗な海に飲み込まれて溺れたみたいに苦しくて。
もう帰りたくないの。ひとりぼっちは嫌なの。
「はっ……はっ……っ……はっ」
息がうまくできない。ちゃんと吸い込めない。留守電に切り替わって録音がおわると、私はスマホを握りしめていた。
痺れてきた手先で遥をタップする。遥に電話なんてした事なんてないし、あの女の人と会ってる筈だ。出てくれる訳ない。それでもかけずにはいられなかった。
息が苦しくて苦しくて、遥、お願い。
ーーーー遥、たすけて。
「はぁっ……はっ……」
胸を押さえて、何とか空気を吸い込むのに、うまく吐き出せずに、むせ返りそうになる。怖くてたまらない。息ができない!