忘れさせ屋のドロップス

 私の呼吸が治まったのを、確認してから、遥が私の顔を覗き込んだ。

「怖かったな、ごめんな」
「遥」 

 遥の顔みたら、凄くホッとして、また涙が溢れてくる。


「あー、有桜泣くな。また過呼吸起こすから」  

「過呼吸?……今の?」

 遥に涙を掬われて、ようやく遥の顔をちゃんと見る。

「は、遥!」

 私の視線で、遥はすぐに気づいたようで、そっぽを向いた。


「どうしたの、その顔」

「あー……あんま見んな……ちゃんと、話してきたから。もう会わない。他の女も誰とも」

 遥の唇の端は血が滲んで腫れていた。

「え?」

「だから、忘れさせ屋やめんの」

 目を丸くした私をみて、遥が綺麗な薄茶色の瞳をきゅっと細めた。

「何だよっ。……有桜が泣くからだろーが」

「ほんとに?」

「だから殴られてきたんだろが」

唇を尖らせた遥が、子供みたいで私は声を出して笑った。

 遥が、もう夜に出かけていかないことにほっとして、遥が私の為にそうしてくれたことが、嬉しかったの。
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