忘れさせ屋のドロップス

「痛って、ちょ、待って。有桜、ワザと痛くしてねーよな?」
 
 薬箱を出して、遥の口元を消毒してたら、遥が眉を寄せて抗議を口にする。


「してないよ。……あの、何発叩かれたの?」


 ピンセットの先に消毒液を染み込ませたガーゼを、遥の口元にポンポンと当てていく。


「オマエなー、それ聞く?答えにくい質問すんな。……てゆーか女ってこえーよな。今後、会わない代わりに好きなだけ叩いていいって言ったら、マジで好き放題叩かれたしな……痛っ!」

「あ、ごめん、強かった?」

「やっぱワザとじゃん」


 不貞腐れた遥を見ながら、クスクスと笑う私を見て、遥が口角を上げた。


「やっと笑ったな」

「遥?」


 私の頭をくしゃっと撫でると遥が頬に触れる。

「俺さー、やっぱ有桜の笑った顔のが好きだから」

 真っ赤になった私を見ながら、遥が頬を染めて意地悪く笑った。


「赤くなんな、ばーか」

 その夜は、私が言うより先に、遥が私を包むようにして背中を摩ってくれた。遥の鼓動を
感じながら、私はすぐに眠ってしまった。

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