ひとみ-眼球上転-





「ありがとうございました。」












今日、私は救われた。




ヒーローだった、君は。



私の宝物。























「帰れるの?」

















「多分…。」




恥ずかしい姿を見せた後で、決まりが悪くてつい言葉を濁す。


いつもなら自分を偽って心配かけないようにして。やり過ごすのに。












今日、私は道で倒れた。


段差も何もないところで足がもつれて。



足取りが危ういことなんてわかっていた。

だって、いつもの事だから。













助けてくれた人は、私の通う「はずだった」中学校の子だった。






「あのさ、」















「辛いならつらいって言わないとわかんないよ。」









「目が合って思ってること全部わかるとか、ないから。」



何をミスったのか。核心に迫ることを言われて一瞬戸惑う。





でも分かる。きっとこの人は本当に私を心配してくれて。



ちゃんと受け止めてくれる。




「俺、君のこと見てたけど…君、無理してるでしょ?」










何でわかるのかな。私でさえ認めたくなくていつも隠してるのに。言うのが、怖いんだ。






「私、」




















「眼球上転するんです。」
















これはただの序章でしかない。






































私は、発達障害がある。幼いころから人が苦手で友達もいなくて。














学校でいつも泣きたいのを我慢してた。



人が怖いのだ。人の目が怖い。







話しかけられるのも話しかけるのも怖くて。
給食の味もわからなかった。緊張して食べきることに必死で。






本が好きだから図書館で働きたい。



二分の一成人式でそう言った。どう思われるかすごく怖くて。







本はみんなに平等で私に向けられた好奇の視線なく知りたいことが分かる。

だけど、言葉にして伝える大事さを知ったのに現実にはいかせなかった。










だから言葉にするのは初めて。















「目が上を向くんです。」














「心の問題みたいで。」






心の壁に、触れる。




















「だろうな。」



「え?」















「見てたから、ずっと。」



































君はいつも何かにおびえている。


無理して息を殺して。寿命を縮めてるみたいで見ていて痛々しい。



「ひよこはストレスに弱い。前に何かで見た。」



君は覚えているだろうか。






「あ、それ私の作文。小学生の時に。」







君の本音には素直な思いが隠れてる。













小さくつぶやいた君は信じられないくらいに精気に満ちていた。














「目が合ったら君は笑ったんだよ。」















あの時、恋をしたから。


俺はこの子を守りたい。















そばにいて知りたい。























「あの時の君はまだ人が怖くなかったんだ」

「忘れているだろうからから言うけど。」












「君の眼球上転には理由がある。」
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