冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす
プロローグ
甘くてスパイシーなムスクが香った。彼が使っているオーデコロンは、控えめで普段はほとんどわからない。その香りが今、間近にある。
「こちらへ」
クイーンサイズのベッドを前に足を止めた私。彼―――笛吹豊(うすいゆたか)はベッドに腰掛け私を見つめていた。ダークブラウンの瞳に、真意は見えない。
「嫌ならやめる。奥村明日海(おくむらあすみ)、別にきみに咎があるわけでもない」
「いえ、弟がかけたご迷惑ですから」
「だからといって、こんなことを許すのか。俺の八つ当たりであるのはわかっているんだろう」
豊さんはふっと笑った。普段はツーブロックにセットされている髪が、少し濡れて額と涼しげな目元にかかっていた。シャワーを浴びたせいだ。
「専務の……豊さんの気が少しでも晴れるなら……」
「そして、奥村フーズ株式会社と父親を守れるなら?」
私は詰まり、それからこくりと頷いた。
豊さんが目を伏せ、それから腰をあげる。ベッドの手前で立ちすくむ私の腕をぐいと引いた。
「弟の不始末と親の会社を守るため、専務に抱かれるか。健気なことだ」
「自分でベッドに行けます」
そう言ったものの、横抱きに抱き上げられてしまった。普通の体型の私を軽々と抱えられる体躯と膂力に驚き、そして甘い香りに全身がしびれた。
私はこれから豊さんに抱かれる。
< 1 / 174 >