冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす
9.私たちのハッピーエンド
望と可世さんが再び私たちの前から去って、ひと月が経った。
季節は十一月、都内では紅葉が始まる頃だ。
あの後、週刊誌には訂正記事が載り、一応のところ豊さんの名誉は回復した。
訂正記事には、情報提供者の一方的な情報を確認せずに掲載したという内容があったため、情報提供者について憶測を呼び、中安議員の関与も疑われたようだ。豊さんの当時の婚約者が中安可世さんであることを知っている人間は、何人もいる。
しかし確証があるわけでもない噂はひとつきもしないうちに消えてしまった。
むしろ、一時的ではあるが、テレビで見せた豊さんの笑顔や話しぶりが世間では騒がれた。大企業の次期社長で愛妻家、さらにはイケメン。
疑惑に対し、毅然とした態度を見せたところも評価が高かったようだ。
対照的に、中安議員は現在、だいぶ気落ちしているそうだ。中安夫人からの情報である。あんな人でも、娘の二度目の失踪と絶縁状にも近い手紙にはショックだったようだ。
さらに、資金面やコネクションを頼みにしていた企業には、笛吹製粉の根回しが行き届いている。本人の気力の問題もあり、今後の政治活動は難しい局面に立たされそうだ。
「もしもし、望。そっちはどう?」
この日、私はようやく望に電話をすることができた。
『もうかなり寒いよ。仙台も寒かったけど、北海道はレベルが違うね』
電話の向こうの望は明るい声音だ。