冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす
未来を起こさないように和室の戸を開ける。リビングにいた豊さんが振り向いた。

「起こしたか」
「いえ、未来が夜泣きをして。さっき寝たところです」
「そうか」

豊さんは低い声で言った。

「何か召し上がりましたか? 簡単なものならご用意できますが」
「きみにそういった気遣いは求めていない」

ぴしゃりと言われ、私は黙った。豊さんは言葉を探すようにわずかに唇をひらき、それから続けた。

「きみは未来の世話を焼いていればいい。俺がいなければ、ふたりで平和に暮らせるだろう」
「そのことですが、この家は豊さんのお住まいでしょう。私と未来に明け渡した状態でいいのですか?」

私の言葉は思いのほかはっきりとしていた。夜泣きの疲労で私も少し通常の精神状態ではなかったのかもしれない。
豊さんは顔をそむけて言う。

「これはきみたちへの生活の保障だ。気にすることはない」
「週末くらいは、ここでお休みになったらいかがですか? 私と未来は実家に戻りますので」

私は豊さんの前に回り込んだ。その言葉に、豊さんが目を見開いた。

「実家に帰る必要はない。ここにいろ」

“人質”は実家に帰ることすら許されないのだろうか。苛立ちとも虚しさともつかない気持ちで豊さんを睨む。
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