冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす
「笛吹製粉の御曹司なんでしょう。忙しいだろうに、未来ちゃんの面倒まで見ようとしてくれるなんてすごいねえ」

藍は言って、グラスのアイスコーヒーをブラックのままごくんと飲んだ。わずかに黙ってから私の顔を見る。

「ねえ、もしかしてなんだけれどね、笛吹さんは未来ちゃんについて勘づいていたりしない?」

どきりとした。私もそれについては考えていなかったわけではないのだ。

「いくらできた人でも他人の子どもに世話を焼ける男性ってなかなかいないと思うんだ。未来ちゃんのこと、やっぱり自分の娘だってわかっているんじゃないかな」

一緒に暮らしだしてひと月と少し。豊さんがその気になれば、未来の髪の毛や何かからDNA鑑定はできるだろう。十日ほどでわかるらしいし、豊さんがその気になれば簡単だ。
しかしもしDNA検査などを済ませて、未来との父子関係を知っているとしたら、どうして何も言ってこないのだろう。

「たぶん、豊さんは娘だとは思っていないんだと思う。未来と私へは、情けをかけてくれているって感じかな。あの人、無表情だし冷たく見える人だけれど、たぶん心根はすごく優しい人」

一緒に仕事をし、彼に憧れていた頃は、その手腕やスマートさにばかり目がいっていた。
だけど同居してみれば、彼の不器用だけど真摯な気遣いを感じる。私と未来を傷つけまいと苦心してくれる豊さんに、私はいつも胸が苦しくなるような感情を覚えるのだ。
< 76 / 174 >

この作品をシェア

pagetop